第12章 共に見る夢 ―ユキside―
「そうそう、王子くんに借りた漫画も返そうと思って持ってきたの。一緒に読む?」
「どれ?」
開いた足の間に舞の体を収め、後ろから両手で腰を抱く。
肩に顎を乗せて開かれたページを覗き込んだ。
「これ。ユキくんに似てるキャラ。雪人先輩」
「へぇ」
「で、こっちはヒロインのお相手の海二(カイジ)くん」
「何かハイジに似てんな」
「あ、やっぱりそう思う?雪人先輩かっこいいんだけど当て馬キャラなんだよね。ヒロインは海二くんのこと好きになるの」
「オイ。当て馬とか雪人に失礼だろ」
「え、ごめん…」
「ちょっと貸せ。海二のどこがいいって?」
まるで俺がハイジに女取られたみたいじゃねーか。
何だこの戦わずして負けた感じ。
ヒロインが海二のどこに惹かれたのかが無性に気になる。
恋愛漫画を読む機会なんて今までになかったが、最初のページから順に捲り始めた。
ふむふむ…何だよ、最初からヒロインと海二は両片想いってやつじゃねーか。
で、ここで雪人登場か。
海二は雪人とヒロインの関係を誤解して、ヒロインを避けるようになる、と。
あー…これは辛いよなぁ海二…。
「ユキくん」
「……」
つか、この展開。
以前の舞と俺とハイジに似てねぇか…?
海二が葛藤する気持ちが痛いほどわかる。
そういや舞は雪人を推してたよな?
ってことは、こっちの世界線でいうところのハイジが推し…?
いや、こっちの世界線ってなんだよ!
三人の関係が似すぎててわけわかんなくなってきた!
「ユキくん」
「ん?」
「そろそろ一時間経つんだけど」
「あー、そう…」
もう一時間?意外と集中して読んでしまっていた。
そろそろ誰かが帰って来る頃か。
視線を落としていたページはふいに見えなくなる。
下から顔を傾けた舞が、視界を遮ったのだ。
「その巻読み終わったら、かまって欲しいな…」
小さくそう言って、俺の体に抱きついてくる。