第12章 共に見る夢 ―ユキside―
「私のことも、あんな風に言ってくれて、ありがとう」
舞を馬鹿にするのだけは許さない―――。
当たり前だ。
大切な女の気持ちを軽視されるなんて、黙っていられるわけがない。
「ユキくんに大事にしてもらえてるなぁって。好きでいてくれてるんだって実感できて、嬉しかった」
「いつも言ってるじゃん。好きだって」
「 "好き" って言ってもらうのと、私が自然とそう感じるのとは、また違うんだよ」
「そっか」
やっと泣き止んだ舞が幸せそうに微笑むから、その顔を見ていたくて短く返した。
「あ、そうだ。これ、渡しておくね」
舞がトートバッグから取り出したのは、ハイジのタブレット。
なるほど、そもそもこれを返すためにアオタケに来たってわけか。
それを受け取り、机の上に置く。
「今更だけど…ちゃんとユキくんの部屋で過ごすのって初めてだね。今日は他のみんなは?」
「まだ帰ってねーよ。いつも誰かしらアオタケの中にいるからな。やっと連れ込めた」
「連れ込…」
「昨日LINEで送った言葉、覚えてる?」
「うん…」
昨夜秋風漂う中送ったメッセージは、舞のそばにいられなかった俺の、ささやかな欲求。
[早く、抱きしめたい]
特別なことをしたかったわけじゃない。
ただ、こうしたかった。
あったかい体を腕の中に閉じ込めて、髪を撫でたり頬を弄ったり。
今日は…今日こそはずっと、舞の一番近くにいたい。
「元気になってよかった」
「うん」
「夕方の練習までこうしてていい?」
「うん」
「ほんとは色々したいけど、病み上がりだから我慢するな?」
返事がない。
目の前にある瞳は微かに丸く、形を変える。
「あららー?何か期待してた?」
「…してた、って言ったら、どうする?」
「……」
「ふふ。赤くなった。ユキくんの負け」
くそ…舞の方が一枚上手だった。
まあ、いいや。
からかわれても遊ばれても、何でもいい。
舞を抱きしめていられるなら。
俺といることで、こうして笑ってくれるなら。