第12章 共に見る夢 ―ユキside―
物言いが煽り臭くて、とことん嫌味ったらしい。
赤毛ワカメ(榊)と同じタイプ?
激高して胸ぐらでも掴めば満足するのか?
生憎、そこまで血気盛んじゃない。
「だよなぁ…俺もそう思う。どう考えたって無謀な挑戦だよ。まあ俺たちは本気で箱根を走りたいと思ってるような馬鹿の集まりだから。心配してくれなくても大丈夫」
「は…?」
「ただ真剣なのは舞も同じなんだよ。俺たちが箱根で走ることを信じて、自分の時間削ってまで一緒に練習してくれてる。毎日全力でサポートしてくれてる。
あんたさ、舞のことがよっぽど大切なんだろうけど。その大切な女のことまで馬鹿にしてるって、自分で気づかねぇの?」
粛々と言葉を重ねれば、豪チャンは眉間に皺を寄せて黙り込む。
自分が口にしたことの意味、気づけよ。
「舞を馬鹿にするのだけは、許さねぇからな」
俺たちのことはいい。
馬鹿な連中だと思われて当然。
それが正当な評価だと納得してしまうくらい、開き直っている。
ただ舞とハナちゃんは、こんな途方もない目標を抱いた俺たちに寄り添ってくれた。
このチームのために力を貸してくれて、共に夢を見てくれた。
その気持ちを馬鹿にされるのだけは絶対に許せない。
沈黙していた目の前の男が、俺を通り越して別の場所を見ていることに気づく。
「舞…」
振り返ったところには舞が立っていた。
悔しそうに唇を噛み締め、丸い瞳を潤ませている。
「豪ちゃん。私も同じだよ。みんなを馬鹿にしたら、許さない」
目尻の際に留まっている粒は、あと一度瞬きをしたらこぼれてしまいそうだ。
「…いいよ、舞」
舞の肩に手を置いたと同時に光の筋が丸い頬を伝っていく。
何でこんなに優しいんだろう。
俺たちを思って泣いてくれているこの子の存在が、堪らなく愛おしい。
「もう帰って。大切な時なの。ユキくんの気持ちを乱すのは止めて…」
言葉は交わさなかったし、目も合わなかった。
こいつが何を思ったのかはわからないけれど、舞のことすら目もくれず、足早にこの場を去っていった。