第1章 ふわり、舞う
私のことなら気にしないで。
そう口にしようとしたタイミングで、ユキくんは私に耳打ちする。
「なあ、二人で抜けない?」
「え…?」
「舞ちゃんの友達には悪いけど、俺もあんま乗り気じゃなかったんだよ。この合コン」
「そうなの?いや…そうは見えなかったよ」
さっきのノリを見る限り、案外楽しそうにしていたけど。
「だーかーらー!付き合いだって!顔を立てるっていうかさ!」
「ちょ、ユキくん!声大きいよ!」
「ヤベ…」
チラリとみんなをうかがうものの、誰も私たちの会話を気にしている様子はない。
「この感じだと二次会までありそうだよな。そこまで参加する?」
「うーん…」
「ほら、決まり。俺トイレ行くフリして店の外出るから。舞ちゃんも適当なタイミングで来いよ」
そう言って、さっさと部屋を出て行ってしまった。
適当なタイミングって、どこですか…?
合コン参加すら経験少ないのに、男の子と二人で抜け出すなんて。
とりあえず5分くらい置けばOK…かな?
盛り上がるメンバーを横目にこっそりバッグを持って、個室を後にする。
そのまま通路を突き抜け、ダッシュで店の外ヘ逃げ出した。
「はぁっ、ドキドキしたぁ…」
「そんなダッシュで来なくても!」
ユキくんは肩を震わせて笑っている。
「だって!何か悪いことしてるみたいなんだもん!」
「俺といるって友達にLINEしとけば問題ねーよ。そしたら合コンの雰囲気も壊れないだろ?あとはみんなで楽しんでくれるから」
「そっか…」
スマホを取り出して、言われたまま友達二人にメッセージする。
[今雪彦くんといるよ。
飲み代は学校で返します!
ごめんねm(__)m]
数分後。
やや興奮気味の返信が入った。
[キャー♡
一番の優良物件にお持ち帰りされるなんて♡]
[舞、上手くやったね♡
今度詳しく聞かせてよっ♡]
よかった…怒ってないみたい。
「大丈夫だっただろ?」
「うん」
やっと肩の荷が下りた。
お店にいたのは1時間くらい。
何だか気疲れしちゃって、もっと時間が経っているような気がする。
まだ20時、か…。