第12章 共に見る夢 ―ユキside―
『…え?』
驚いたような声が耳元に届く。
「窓の外、見て」
八百勝の店先から反対側に位置する路地裏の、舞の部屋の窓。
そこを見上げていると、慌ただしくカーテンが開き、続いて窓も開け放された。
「ユキくん…!」
「本当だ。ちゃんと元気そうだな」
窓枠から身を乗り出して見下ろす顔は、ここ何日も思い描いていた舞と同じ笑顔をしている。
「待ってて。下、行く!」
「あ、やめとけ。寒いから。ぶり返したら予選会来られなくなるぞ」
「…そっかぁ、うん。あ、じゃあユキくんがここに来て?」
「こんな夜遅くに彼女の実家上がれねーよ 。今日はほんとに顔を見に来ただけ」
「私が会いたいって言ったから、わざわざ…?」
弾んでいたさっきまでの声は、申し訳なさそうなか細い声へと変わる。
「俺が会いたかったからだよ」
「…ほんと?」
「もちろん。すげー満足。パワー満タン」
「ふふっ、私も」
「明日、待ってるな」
「うん」
「早く…。……」
「……? "早く"…なぁに?」
一応近隣に配慮して小声で話していたが、いくら音量を抑えていてもこの先は誰にも聞かれたくない。
スマホからメッセージを送る。
俺の動作を見ていた舞も、通知音のあった自分のスマホを開いた。
文字を目にしたらしい瞳は一瞬見開かれ、すぐにはにかんだ笑みを零して小さくうなづく。
満面の笑顔も好きだけれど、恥ずかしそうに肩を竦ませて俯くこの仕草も、堪らなく可愛らしい。
愛おしさが心に沁みる分だけ、手を伸ばしたくなる。
ああ…早く、
抱きしめたい―――。