第12章 共に見る夢 ―ユキside―
「ハイジの言うことも正論だと思う。でも俺がまず大事にしたいのは、二人の気持ちだ」
自己記録を更新するたび。
一人、また一人と公認記録を達成するたび。
笑ってはしゃいで、時には涙をにじませて、自分のことのように喜んでくれた。
舞が恋人としていつも俺のそばにいてくれたのは言うまでもない。
ただ走ることに関して言えば、俺を特別扱いしたことは一度もなかった。
王子が伸び悩んでいる時、別の景色を見に連れ出してくれた。
ハナちゃんだって、不調で苛立ったカケルに当たられても黙って受け入れてくれていた。
双子のアイドル的存在として、あいつらの原動力にもなっていただろう。
本当に温かくて、優しくて、いい子たちだ。
「舞もハナちゃんも、このチームを大切にしてくれてる。それは決して自惚れじゃねぇと思うんだよ。だからこの先どうしたいか、俺はちゃんと二人の気持ちを聞きたい」
「俺もユキと同じ考えだ」
「…は?さっきは辞めてもらおうとか早まったこと言っといて…」
「もうユキの中で結論が出てるような顔をしていたからな。俺はおまえの気持ちが聞きたかったんだ」
「……」
クソ…なんだこれ…
ハイジに相談した意味あったか…?
釈然としない気持ちを込めて軽く睨んでみるが、ハイジはそれに気づきもしない。
佃煮だか金平だかよくわかんねぇ茶色い料理を、呑気にモグモグと味見しながら呟く。
「きっと二人とも、辞めるなんて言わないと思うけどなぁ」
「だと嬉しいけど」
「無理させないように俺たちが気を配るのは大前提だけどな。舞ちゃんのことはユキに任せるよ。ハナちゃんには、俺から話してみる」
「おう」
その夜、舞にメッセージを送った。
俺にできることは何かと考えた時、もうこれ以外浮かばない。
[箱根、一緒に行くぞ!
舞は安心して休んでろ]
走るんだ。ただひたすら。
絶対予選会を通過する。
今すべきことは、これだけ。
数分置いて返信がくる。
[ありがとう。早く練習に行きたいな]
さっきの俺たちの懸念をあっさり覆す言葉。
お礼を言いたいのは俺の方だ。
体が辛いときに、こんな風に思っていてくれて。
次に会ったら真っ先に言葉で伝えよう。
舞、ありがとう。
今はゆっくり眠れますように。