第12章 共に見る夢 ―ユキside―
「おいおい、やめろって。体が弱かったのは子どもの頃の話だろ。もし無理が祟ったんだとしたら、ちゃんと気づけなかった親の俺が悪い。ユキを責めるのは筋違いってもんだ」
「いえ。舞の優しさに頼っていたのは俺です。もっと考えるべきでした。すみません」
「…そんなに気ぃ落とすな。大丈夫だから」
宥めるように、皺のある大きな手が肩に置かれた。
その優しさすら、重くのしかかる。
二人に挨拶をして、これまでのこと、これからのことを考えながらアオタケへの道を行く。
気遣うべきなのは舞だけではない。
ハナちゃんは来年受験も控えているし、あの姉妹の厚意にこのまま甘えていいものか。
ふと、あいつの顔が浮かんだ。
今回のこと、話さなければ。
この先どうするのかも。
玄関の建付け悪い扉を開けるとすぐ、出汁の匂いが漂ってきた。
夕方の練習が始まる前に晩飯の用意をしているのだろう。
エプロンを身に着け台所に立つそいつに、声をかける。
「なあ、ハイジ」
「ああ、ユキか。おかえり」
「ちょっと話がある」
舞が体調不良なのはハイジも既に知っている。
そのことを踏まえ、今の舞の病状と帰る道中俺が考えてきたことをハイジに話した。
「ハイジはどう思う?」
「確かに舞ちゃんやハナちゃんにこれ以上頼るのは良くないのかもしれないな。それぞれ自分に使うべき時間もあるだろう。舞ちゃんのことは、配慮が足りなかった俺たちにも責任がある」
「そうだよな…」
「予選会はいい区切りかもしれない。二人に話をして、辞めてもらうことにするか。もうここまで十分助けてもらったからな。あとは俺たちだけで頑張ろう」
いともあっさり、淡々と。
練習メニューを明日から変更するぞー、と提案する時と同じような口調でハイジは言う。
「…え、いきなりそれ?」
「いきなりって?ユキはどう思うんだ?」
ハイジが間違ったことを言っているわけではない。
ただ、結論が早すぎる。
ここまで一緒に走ってきてくれた二人に対して、俺たちの思いを押し付けてはいないか。
黒目がちな瞳が真っ直ぐに俺を見ている。
こういう時のハイジは、本音を打ち明けるまで逃してくれない。
しっかり、その眼と向き合う。