第12章 共に見る夢 ―ユキside―
勝田さんの口から出てきた病名に思わず声がデカくなる。
「肺炎…!?入院してるんすか!?」
「いやいや!内服薬で様子見てる段階だ。ずっと部屋で寝てるよ。熱がすっきり下がらねぇし、夜中も咳してる声が聞こえてくるしな。こんなに拗らせたのは子どもの頃以来だ」
状況がわかっても、この前と同じだ。
俺にできることが見つからない。
そばに行きたい。
手を握って安心させてやりたい。
苦しんでいるのなら、背中を擦ってやりたい。
そう願ったところで、どれも今の俺には無理だ。
「おっちゃん。舞、まだ熱あるよ」
「飯は食えたか?」
「茶碗半分も食べてない。それどころか咳が酷くてさっき吐いてた」
「そうか…」
家の中から店へと続く引き戸が開かれた。
そこから現れたのは、今の俺が自制しなくてはいけないことを、躊躇なくできる男。
「…なぁ豪、助かるけどな、毎日あいつの様子見に来ることねぇぞ?」
「一人にしたら可哀想じゃん。おっちゃんもおばちゃんも店忙しくて看病まで手が回らないだろ?」
「そりゃそうだが…」
ただの心配性ってわけじゃねぇだろ、これ。
やっぱりこいつは舞のことを……。
嫌ってほど気持ちが透けて見えるのに、その役割を代わりに買って出ることもできない。
舞のことでこんなにも無力感に襲われたのは、初めてだ。
視線を落とし大きくため息をつく。
同時に、もうひとつ別のため息が重なった。
「あんたさ、彼氏だろ?いつもそばにいたんだよな?無理させてたんじゃねーの?」
「……」
「舞は小さい頃は体が弱くて、しょっちゅう熱出してたんだ。風邪を拗らせて入院したりもしてた。遊んでる途中で具合が悪くなって、俺がおぶって家まで連れて帰ったこともある。あいつの "大丈夫" は大丈夫じゃねぇんだよ。舞のことよく見ろってのは、そういうこと」
返す言葉がない。
ここ数ヶ月は練習に参加する頻度が増していた。
朝も晩も毎日練習に来てくれたし、その合間にバイトして、店の手伝いもして、大学へ行って…。
一番近くにいたのは、間違いなく俺だ。
舞に甘え過ぎていたのは否めない。
目前の予選会のことしか頭になかった。
もっと気を配るべきだったのに……
本当に俺は、舞の何を見ていたのだろう。