第12章 共に見る夢 ―ユキside―
「俺が連れてく。いいだろ?おっちゃん」
「豪も店番あるだろ?」
「最近バイトが一人入ったから短時間なら平気。それより舞。薬飲んで早く寝よう。食べたいもんあったら買ってくるし。後でお粥も作ってきてやるから」
「一人で大丈夫だよ」
「おまえの "大丈夫" には何度騙されたか。部屋行くまでに階段もあるだろ?心配だから」
「うん…。ごめんね、ユキくん。元気になったらまた練習行くから」
「…ああ。待ってる。しっかり休めよ」
家の中に入るまで、舞は俺を気にして控えめに手を振った。
一人にするよりは安心だと心に言い聞かせ、舞の背中に手を添えたあの男の存在を受け入れる。
いや…本当は受け入れたくなんてねぇけど。
それでも今は、無理矢理にでも受け入れる以外ない。
「なんか悪いな。ユキ」
「や、大丈夫です」
「豪のやつ、親の俺たちよりよっぽど過保護でなぁ。あいつひとりっ子だから、昔から舞や葉菜子のこと本当の妹みたいに可愛がってて」
「そうなんすね」
妹…、ね。
よく聞くやつだ。
そんでもって、本人に妹みたいなんて意識は毛頭ないやつ。
「まあすぐに治るだろうからよ。また舞のこと、頼むな」
「はい」
彼女の父親に気を使われるのもなかなか情けない。
それでも今この場所で俺に出来ることなんて何もないわけで。
後ろ髪を引かれながらも、八百勝を後にするしかなかった。
それから丸2日が経った。
舞からは音沙汰がない。
ハナちゃんは今テスト期間で練習に参加していないため、様子を聞くこともできない。
何度かスマホに手を伸ばしてはみたものの、俺からの連絡が負担になったらと思うと電話もLINEもできなかった。
大学からの帰り道、俺の足は商店街に差し掛かる。
八百勝の店先には勝田さんの姿が見えた。
「おう、ユキ!」
俺に気づいた勝田さんがこちらに向かって手を上げる。
「こんにちは。舞の具合、どうですか?」
「それが、肺炎になりかけてるらしいんだよ」