第12章 共に見る夢 ―ユキside―
「舞」
「おい」
同時に舞に近づいたのは、酒屋の兄ちゃん。
「何?豪ちゃ…」
「おまえ、熱あるだろ?」
そう。最初は曖昧だったが間近で見てみるとはっきりわかる。
顔が紅潮しているのだ。
「熱…?そう言えば…暑いかも…」
「そう言えばってレベルじゃないだろ、これ。しっかり熱あるぞ?自覚なかったのか?」
舞の額に手を当て、酒屋の兄ちゃんは語尾を強める。
「今日は気温が高いのかと思って、あっ…!」
「!」
立ち上がった舞の体がこちらに傾き、咄嗟に肩を抱いて支えた。
「大丈夫か!?」
「ごめ…ユキくん。立ちくらみ…」
「もう手伝いはいいから部屋で寝てろ。母ちゃんが買い出しから戻ったら俺が配達行くから。ユキ、悪いが舞を部屋まで連れてってくれるか?あと冷凍庫にアイスノン入ってるから。体温計と薬はリビングの棚の一番上の引き出し。適当に水分摂らせて寝かせてやってくれ」
「わかりました」
ぼんやりと立ちすくむ舞の手を取る。
「舞。行こ…」
「だめっ…」
掴んだ瞬間、それは振り払われた。
舞にこんなことされるなんて思ってもみなくて呆気にとられる。
「ゴホッ…、だめだよ。ユキくん。今風邪なんて引いたら絶対まずいでしょ?」
「それは…」
「来てくれてありがとう。でも、今日は帰って?ユキくんやみんなの足引っ張るのだけは嫌だから」
俺たちは10人しかいない。
1人でも欠けたらその穴埋めをしてくれる者は誰もいない。
それを肝に銘じてきたのは、俺たちだけじゃない。
舞だって同じ。
舞の優しさだということはわかる。
全部、俺たちのため。
目前に控えた予選会のため。
頭ではちゃんと理解できるけれど、"今"そばにいられないもどかしさで胸にモヤがかかる。