第12章 共に見る夢 ―ユキside―
「良く思ってないって?駅伝に関わるのを辞めさせたいってことっすか?」
「はっきり言ってそういうこと。あんた彼氏らしいけどさ、ちゃんと舞のこと見てるのか信用できないんだよ」
「は?それどういう…」
「待たせたな、豪!これ、ちょうどな!」
「…うん」
勝田さんが戻ってきたことで会話は途切れた。
不完全燃焼だ。
何を言いたかったんだ、こいつ。
舞のこと見てるのかって?
見てるよ、毎日。
朝も晩も一緒に練習して、時間を見つけては二人きりで過ごす時間も作ってる。
話の意図が掴めない。
「そうだユキ。舞なら配達に出てるぞ」
「え…?体、いいんすか?今朝練習休むって連絡あって」
「ああ、咳しててな。お前らにうつしたらいけねぇと思ったんだろ。なに、ただの風邪だ。そろそろ帰ってくる頃だと…お、噂をすれば」
店の脇にワゴン車が停まる。
運転席から降りてきた舞は、俺に気づくなり両手で "ごめん" の仕草をして見せた。
「ユキくん!電話出られなくてごめんね。運転してたから」
「いや、それは全然。大丈夫なのか?」
「うん。夜中から咳が出始めちゃって。今みんなにうつしでもしたら大変だから、練習休ませてもらったんだ」
「そっか。無理すんなよ」
「大丈夫。心配して来てくれたの?ありがとう」
マスクをしているから半分しか顔は見えないが、何となく抱く違和感。
「なぁ舞…」
「ゴホッ、ゴホッ…っ、あ、あんまり私に近づかないほうがいいよ!次の配達あるから行くね。お父さん、隣町の洋食屋さんの分くれる?」
「おう、頼むわ」
勝田さんから段ボールを受け取る舞の腕。
それは俺たちの目の前でガクンと力を失くした。
鈍い音と共に野菜を詰め込んだ箱はアスファルトに落下する。
「やだっ、トマト入ってたよね!?」
「中身入れ替えるか」
「ごめん、お父さん…!」
しゃがみ込み、梱包したガムテープを外して中を確認する舞と勝田さん。
その顔を見てやっぱり変だと思い、俺の足は舞の元へ向かう。