第12章 共に見る夢 ―ユキside―
朝練のあと舞に電話をかけてみるが、応答はなかった。
LINEをしてみても同じく、既読も付かない。
(寝てんのか…?)
舞とのメッセージ画面をしばらくボーッと眺めていたが、点灯していたディスプレイは程なくして真っ暗に変わってしまった。
ハナちゃんは今朝の練習には参加していないし、様子を知っているとすれば舞の両親くらいか。
心配性だと自分でも思う。
アオタケの連中になら「寝てりゃ治るだろ」と思えるところが、舞だとそうはいかない。
八百勝に行けば両親のどちらかには会えるはず。
朝練後の汗を最速でシャワーで流し、足早に舞の家へと向かった。
「こんちは」
「らっしゃい!お、なんだ。ユキじゃねぇか。買い物か?」
「あ、いえ。舞、大丈夫ですか?携帯繋がらないから気になって」
「舞?」
「はい。寝込んでるんじゃないんすか?」
「いや?舞なら今…」
「おっちゃーん!町内会の会費貰いに来たんだけど!」
勝田さんとの会話にするりと入ってきた、やたらデカイ声。
良く言えばハツラツとした爽やかなそれは、俺を捉えた途端数段階音を下げた。
「…どうも」
酒屋の豪ちゃん。舞の幼馴染み。
相変わらず感じ悪りぃな、こいつ。
「ちわっす」
取りあえず挨拶だけは返す。
「ああ、そうだった会費な!ちょっと待っててくれ!」
俺たちの間に流れる妙な空気など知る由もなく、勝田さんはこの場を離れていく。
「……」
「……」
「…箱根駅伝」
「?」
「目指してるんですよね?舞から聞きました」
「ああ、はい」
「大変ですね。毎日毎日ひたすら走るなんて」
「まあ、好きでやってるんで。そちらが思うほどじゃないっすよ」
「…舞はどうだか」
「え?」
「正直俺は、舞があんたたちの練習に関わること、良く思ってない」
突如向けられた棘のある口調と目つき。
この前は俺に対するただの嫉妬だと思っていたが、駅伝のことにまで口出ししてくるこの感じ。
何が気に入らないのかと、その鋭利な視線を受け止める。