第12章 共に見る夢 ―ユキside―
「嫉妬丸出しじゃん、あいつ。子どもじゃねぇんだから」
まあ俺も人のことは言えないが。と、我にかえる。
舞との親密な雰囲気に少なからず苛立ち、暗に俺のものだと牽制したのだから。
「幼馴染みとか…少女漫画かっつーの…」
腹の底の僅かな淀みを独り言とともに密かに吐き出し、俺は再び自分の部屋に篭もることにした。
それからの日々もやるべきことは毎日同じだ。
ハイジの作成した練習メニューを着実にこなし、予選会前の今だからこそ怪我には細心の注意を払う。
もちろん、体調管理も調整のひとつ。
勝負はもう始まっているのだと気を引き締める。
「はぁー…今日もキツかったなぁ…」
「いよいよ来週本番だもんね」
夕方のグラウンドからの帰り道。
舞と並んで歩く先は、影が見つけられないほど薄暗い。
季節は秋へと移り変わり、この時間の空気は冷ややかさも含むようになってきた。
「ちょっと肌寒いかも」
「朝晩だいぶ涼しくなってきたからな。体調崩しやすいし、気をつけねぇと」
「そうだね。ユキぐ…、んんっ」
「どした?」
「ううん。ユキくんも風邪引かないようにね。大事な時期だから」
「おう…。てか舞こそ平気?喋りにくそうじゃね?」
練習中は気づかなかったが、いつもより会話の端々で声が嗄れている気がする。
「そうかな?あんまり自覚なかった。空気が乾燥してるのかな?」
いつものように笑い、いつものように他愛もないことを話す練習後の時間。
舞があまりにもいつもどおりだったから、この時頭に過ぎった引っ掛かかりは眠る頃にはすっかり忘れ去られていた。
舞のLINEに気づいたのは翌朝、朝練の準備をしていた時のこと。
[おはよう。ちょっと体調がいまいちだから今日は練習休ませてもらうね。ごめんなさい]
思い当たるのは昨日の舞の掠れた声。
体調不良ってどの程度だろうか。
寝て治る程度ならいいけど…。
出発の時間が迫っているため簡潔に返信をして、みんなの待つ玄関に合流した。