第12章 共に見る夢 ―ユキside―
「ごめん、豪ちゃん!お米お願いできる?」
ワゴン車のトランクの影から八百勝の段ボールを抱えて現れた舞。
俺の姿を見るなり、「ユキくん!」と嬉しそうに笑う。
今朝だって朝練で会っているというのにこの初々しい反応。
俺の顔まで自然と綻んでしまう。
「よお。店の手伝い?」
「うん。豪ちゃん…酒屋さんがアオタケに配達に行くって言うからついでに連れてきてもらったの。お米屋さんからお米も頼まれてて…」
「それも俺が運ぶよ、舞」
舞の言葉を遮り酒屋の兄ちゃんがワゴン車まで歩み寄る。
「でも重いけど…」
「重いなら尚更だろ?米は三袋?」
「うん」
「俺がいる時は頼っていいんだからな。舞はサインもらっといて」
頼りになる兄貴って感じで舞の頭を撫で、軽々と段ボールや米袋を運んで来る。
舞に差し出された伝票にボールペンを滑らせつつ、横目で "豪ちゃん" とやらを伺う。
「誰?」
「酒屋さんちの息子さん。三つ歳上の幼馴染みなの」
「へぇ…」
なーんか舞と距離近くない?こいつ。
「あ、豪ちゃん。寛政大の選手の岩倉雪彦くん。私と同じ四年生」
「どうも。いつも贔屓にしてもらってありがとうございます」
「こちらこそ。舞がいつもお世話になってます」
「…お世話?」
「彼氏です。舞の」
「……」
あー、やっぱりか。
さっきまでの笑顔は即座になりを潜め、俺を見る瞳が嫌悪の色に変わる。
「へぇ…。舞、彼氏いたの」
「うん…」
「こんな感じの人なんだ。意外だなぁ」
こんな感じってなんだよ。
つーか、俺と話そうとする気ないな。
目も合わねぇ。
「ユキくん、来週のこの時間も家にいる?」
「いるけど」
「このところ買い物に来る時間も惜しいみたいでね、ハイジくんに配達頼まれてるの。また野菜届けに来るね」
「わかった」
「おい、舞。次の配達あるから帰りたいんだけど」
「あ、ごめん。じゃあユキくん。また夕方」
「おう」
舞が助手席に乗り込んですぐ、車はアオタケを出ていく。
酒屋の兄ちゃんの黒い空気を残して。