第11章 プレッシャー
「王子サーン!!僕は…僕は…感激で涙が止まりませーん!!」
「今日の走りには感動したぞ、王子っ!ここまでの成長を遂げるとは予想以上だ!練習を始めた頃は雛鳥のようにヨチヨチ歩きだったのになぁ」
「いや…。あの頃も一応走ってはいたつもりなんですけど…」
ムサくんが咽び泣く横で、ほろ酔いのハイジくんは上機嫌で本日の主役に絡む。
「ほら、お前も飲むんだ!」
「…どうも」
毎度お馴染み竹青荘での打ち上げ。
既に酔い潰れたり睡魔に負けて寝息を立てるメンバーもいる中、興奮冷めやらぬ人たちも。
空のコップにコーラがなみなみ注がれるのを薄茶の瞳で眺めたあと、王子くんは申し訳程度にそれをひと口啜った。
「これも食えよ王子!貧血には肉だ!」
ユキくんの手が唐揚げの乗ったお皿を差し出す。
「肌が青白いからって、僕は別に貧血ではありません」
「そっかぁ、ははっ!まあ何でもいいから食えっ!」
酔いが回った先輩二人に拘束され、なんだか居心地悪そうにしながら漫画のページを捲る王子くん。
ただ私としては、ハイテンションになるみんなの気持ちもよくわかる。
まず、運動とは無縁だったのに体力の消耗の激しい長距離に挑み始めたこと。
伸び悩みつつ尚努力する姿。
プレッシャーを抱えながらも目標を成し遂げた、今日の勇姿。
本当に本当に素晴らしくて、今思い返してみても涙が滲んでしまうほどだ。
「今日は凄かったよぉ…。いっぱい頑張ったもんねぇ…よかったねぇ…王子くんはさぁ、本当に努力の達人だよぉ…ぐすっ…」
「親戚のおばちゃんか」
「舞ちゃん泣き上戸なの?」
目尻をハンカチで押さえる私にすかさずユキくんとハイジくんの突っ込みが入った。
こんなにも涙腺がバグっているのは、私も酔っているからなのかもしれない。
でも酔っていようがなかろうが、この際それはどっちだっていい。
王子くんだけにではなくこうしてみんなに "おめでとう" って言えることが、心の底から嬉しい。