第11章 プレッシャー
パアァーンッ―――……
スタートを告げる音が響き渡り、一斉に集団が動き出した。
王子くんは後方をキープしながら走っていく。
大会の雰囲気にはもうだいぶ慣れているようだ。
遠目で応援しているだけでは気づきにくい、選手同士の体が故意に接触するなどの攻防。
よく観察してみても、そういった類の影響はなさそうに見える。
「いいペースだよね」
「ああ。前半でこのタイムなら上等。問題は後半でどれたけスパートかけられるか、だな」
記録会に関しては、タイムが全て。
つまりは自分自身との勝負だ。
王子くんの走る姿と、ランニングウォッチ。視線を交互に移しながら、ユキくんは神妙な顔を見せる。
ふとハイジくんが立つ体育館の方へ目を向けてみると、ユキくん同様真剣な眼差しでグラウンドを見下ろしていた。
最初に夢見ていたのは、ハイジくん一人。
でも今は、ここにいるみんなの夢。
箱根駅伝―――。
ただ一つの目標のためにひたすら走り、悔しい思いもして汗を流して、プレッシャーさえも抱えて。
10人いれば、人知れず涙を飲んだことだって誰かしらあったかもしれない。
ハイジくんはきっと全部わかっている。
彼がここまで見てきたのは、10人が叩き出す数字だけではなかったはず。
王子くんが何度倒れても今日まで走り続けたこと。
逃げる素振りすら一度も見せなかったこと。
そして、今必死に前へ前へと駆ける理由も。
わかっているからこそ、この姿を目の奥に焼き付けているのだと思う。
「王子くーん!!前にーっ!!」
カケルくんが彼の腕に記した "前に!!" の言葉を叫んだ。
「王子さーん!!!」
「そのままそのまま!!」
ムサくんと神童くん。
「「行っけぇぇーっ!!王子さーんっ!!」」
「ガンバレーっ!!」
「あと少しだぞーっ!!」
ジョータくんジョージくんに、キングくんとニコチャン先輩。
「王子さん、ラストーっ!!」
掠れるほどの声を上げるカケルくん。
「イケるぞーっ、王子ーっ!!」
隣で叫ぶユキくん。
これがラストスパート。
全ての力を二本の脚に乗せて食らいつく王子くんと、その走りを微動だにせず見つめるハイジくん。
ゴールラインが近づいてきた。
あと10m…5m…3m…