第1章 ふわり、舞う
「舞ちゃん、帰りもタイムよろしく」
「うん」
ハイジくんの号令でストップウォッチを押し、私は自転車でアオタケへ向かう。
カケルくんには相変わらず追い抜かれてしまうけれど、自己計測しているから大丈夫だと、あれからも気を遣ってくれている。
口数が少ないだけで優しい子なんだと思う。
それはそうと。
不可抗力とは言え、ユキくんに抱きついてしまった恥ずかしさでさっきから頭がいっぱい。
あんなに間近で顔を見たの、初めて。
綺麗な瞳だった。肌は陶器みたいに白くて、雪彦って名前がピッタリ。
もしかして、冬生まれなのかな…。
みんながアオタケにゴールしてからも何だか気恥ずかしくて、ユキくんのことだけは直視できなかった。
「舞、こっち!」
「おまたせ。こんな格好でいいのかな?」
こういう集まりのイメージとして何となくスカートを選択してきたけど。
駅前で待っていた友達二人にお伺いを立てる。
「うんうん、可愛い!来てくれただけで助かるよ!」
「舞はニコニコしてくれてたらそれでいいからね!」
「うん…」
今夜は、合コンなのです。
悪酔いした男の子に強引に絡まれて以来、合コンに苦手意識を持ってしまい極力断っているんだけど。
人数が足りないからどうしても、と頼まれてしまったのだ。
「今日のメンバーね、寛政大の4年生なんだけど」
「去年司法試験合格した弁護士の卵がいるんだって!」
「……」
寛政大学…
4年生…
司法試験…
まさか……ね……。
予約してあるというお店は、チェーン店の個室。
男の子たちは先に店内に入っているらしく、到着早々スタッフの女性に店の奥へ案内される。
「こんばんはー!」
「おー!待ってたぜー!」
耳に飛び込んでくる、複数の盛り上がる声。
ソワソワした気持ちで友達の後ろから個室に足を踏み入れた。
「こんばんは…」
着席している男の子たちを、順に目で追う。
一人目、二人目、そして一番入口近くの席の、三人…目…
「!!」
……ユキくん!!
驚いて目を見開いた私に、ユキくんの動きも一瞬止まった。
そして次の瞬間。
パパッと全員を見渡しその視線がこちらに向いていないことを確認すると、ユキくんは自分の人差し指をコッソリ唇に当てがった。