第1章 ふわり、舞う
「ありがとう。気が進まないってわけじゃないんだけど、私ジェットコースターとか全然乗れなくて」
「へえ。そうなんだ」
「ていうか、気が進まないように見えた?」
「戸惑ってるようには見えた」
「そうだった…?ジョータくんたち気を悪くしちゃったかな」
「大丈夫だって。切り替え早いのはあいつらのいいところ」
キングくんとの追いかけっこは既に終わったらしく、二人はハイジくんと何やら盛り上がっている。
「ユキくんはみんなのこと、よく見てるんだね」
「見てるっていうか、目につくっていうか」
「でも、私のことも戸惑ってるように見えたから助け舟出してくれたんでしょ?この前のパンクの時も」
「まあ…」
「ありがとう、気にかけてくれて」
「いや…」
「初めて練習に参加した日ね、知ってるのはハイジくんだけだし男の人ばっかりだし陸上経験なんてないし、不安もあったの。でもユキくんが話しやすくて優しい人だったから、すごくホッとした」
ユキくんは私と目が合うなり、パッとそれを逸らしてしまう。
「舞ちゃんは…アレだな…」
「アレって?」
「何つーか…。いや…やっぱいいわ」
「え?気になる」
「大したことじゃねーから気になんな!」
「言いかけて止めるなんてずるいよ」
一方的に話を切り上げて行っちゃうから、ますます気になって後を追う。
「待ってユキく…、きゃっ…!」
足にガクンと衝撃が響き、体が前のめりになる。
思わず目の前にあるユキくんの背中に向かって手を伸ばした。
「あ?…おい!」
振り向きざま、ユキくんは倒れ込む私を受け止めてくれる。
「…ビックリしたぁ」
「いや、俺の台詞な」
気づけば顔は至近距離。
目を丸くしたユキくんが私を見ている。
「大丈夫か?」
抱きとめてくれた手が、肩と腰に添えられて。
「ごめんなさい…!」
あまりの恥ずかしさに慌てて距離をとった。
「何かにつまづいちゃって…、王子くん!?」
私が足を引っ掛けたのは、地面に体を投げ出した王子くんの腕。
「ごめんね!痛かったでしょ?大丈夫?」
「…ダイ…ジョー…ブ」
虫の鳴くような、か細い返答だ。
「よし、休憩終わりー!帰って朝飯だ!行くぞ、王子!」
ハイジくんが駆け寄ってきて、全身真っ白の王子くんを容赦なく起き上がらせる。