第11章 プレッシャー
「ねえ。このピアス、いつ開けたの?」
今度は私がユキくんの心を軽くする番。
右耳に光るシルバーのピアスに、指先で触れてみる。
「え?あー…高校卒業した時」
「そうなんだ。校則厳しかったとか?」
「そうそう、3年間地味にしてたわけ。解放された勢いっつーか。家も出たし、何か新しいことしたくて」
「それでチャラついちゃったの?」
「チャラ男で悪かったな!…え、もしかして男のピアス、嫌い?」
「ううん、別に。似合ってると思うし」
「そう…」
「でも初めて会った時はちょっと構えたよ。クラブ通いしてるってキングくんが言ってたから。いわゆるウェイ系ってやつ?なのかなって。何か怖そう、取っ付きにくそうかもって思った」
「キングあいつ!マジで余計なことしか言わねぇな!」
「だけどね、その日のうちにそんな第一印象塗り替えられちゃった」
自転車がパンクして困っていた私に付き合って、一時間半もかけて歩いて帰ってくれた。
初めて会った人なのに、帰り際にはもう少し一緒にいたいとさえ思えた。
「私、初めて会った日からユキくんに惹かれてたよ」
レンズ越しの瞳を見つめる。
何度か瞬きをして口を開きかけたユキくんより先に、言葉を重ねる。
「こんな風に始まった恋愛、初めてなんだ。よく知らないまま人を好きになるなんて、今までになかった。
だからユキくんは、私にとって特別な人」
「……俺だって」
「ずーっと、ユキくんと一緒にいるからね。そばにいなくても、そばにいる」
離れてしまっても…とは言いたくなくて、妙な言い回しをした。
そんな私の心を察してくれたみたいに、ユキくんは頷く。
「絶っ対、離してやんねぇ」
ユキくんの手が、私のそれを握った。
この時間はとても愛しくて、抜け出したくないと駄々をこねたくなってしまうけれど。
私たちにはきっと、もっと彩りのある未来が待っている。
そう信じていた方が救われる。
いつか笑いながらこの夏の日のことを話せるように。
数年後の私たちが、走ることに費やした日々を誇れるように。
私も強くならなくちゃ。
さっき貰ってばかりと言ったのは、物だけの話ではない。
私も、ユキくんを支えられる人になりたい。
私たちは二人でいるんだから。
遠くにいても、手を繋いでいよう。