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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第11章 プレッシャー



「いっ…、今!?」

「今!すんげー似合ってて可愛いから今キスしたくなった!」

「待って!また王子くんに見られてるパターンじゃ…」

「誰もいねーし」

二人で辺りを見渡してみる。
確かに、目の届く範囲には誰もいない。
思わず安堵のため息が漏れた。
周りの状況が分かれば、私もユキくんと似たような気持ちになってくる。
ほんの少し大胆になった私は、自ら二人の距離をゼロにした。

ちゅっ…

さざ波に掻き消されてしまうくらいの小さなキス。
至近距離には、驚いた表情をしたユキくん。
その顔が一瞬で赤くなるのを目の当たりにした途端、私の体にも伝染したかのように熱が宿った。


「結構大胆だよな、舞も…」


「ユキくんが先にしたんでしょ…」


初めてのキスではない。
なのに何だかものすごく恥ずかしくなって、二人の合間にはしばらく沈黙が居座った。
近づいては遠ざかる、白い波。
何度もその様子を眺めたあと、ふと気づく。

「私、ユキくんに貰ってばっかりだね」

「何?」

「誕生日プレゼントもだし、今日だって…」

「俺がしたくてしただけ。それにシーグラス貰っただろ?」

「拾ったものはプレゼントって言わなくない…?」

「いいんだよ。俺が満足してんだから」

「わかった!その代わりユキくんの誕生日、楽しみにしててね!」

「おっ、ハードル上げたな!」

「え!?そう言われるとプレッシャーかも!でも、うん、頑張る!」

「いや、冗談だし!」

いたずらっぽく笑うユキくんに笑顔を返すと、その瞳に僅かな影を落とした。


「頑張んなくていいんだよ、本当に。
俺は、舞と居られるだけでいい」


「……」


今度は冗談混じりじゃない。
理由はわかってる。
その先に訪れるものを、お互いに知っているから。

桜が咲く頃、私たちは同じ街では暮らせなくなる。
ユキくんが社会人として新たに飛び込む場所は、私が住む街からはだいぶ離れてしまう。
始まりが近かった分、その時を想像するだけで寂しさと悲しさが付き纏う。


"心と心がガッツリ繋がってれば、大丈夫"


合宿中、思わず不安をこぼした私にユキくんはそう言ってくれた。
さすがしっかり者のユキくんだなって心が軽くなった気がした。
その言葉で前向きにもなれた。


でも本当は、ユキくんも同じ気持ちなのかも。


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