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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第11章 プレッシャー



寛政大学陸上部の監督である、田崎さん。
アオタケの大家さんでもありニラの飼い主でもある。
選手への指導は全てハイジくんに託しているようで、私はチラッとしかその姿を見たことはない。
存在感が薄いかどうかはともかく、大分お年を召した印象のお爺さんではあった。


「王子。もう一度土産屋に戻るから、一緒に見繕ってくれるか?」

「はぁ」

「それなら私たちも…」

「いいよ。舞ちゃんたちは待ってて」

砂で汚れた足を拭きスニーカーを履き終えたハイジくんは、王子くんを連れて足早に行ってしまった。


「俺たちに気ぃ利かせたつもりだな、ありゃ」

「えっ、そんなのいいのに…」

「な。まあ折角の厚意だし。散歩でもする?」

「うん…」

突如二人きりになった私たち。
ゆっくりと足並みを揃え、日が傾き始めた砂浜を踏みしめてゆく。

「こんな風にのんびりするの、久しぶりな気がするな」

「ほんとだね。なんかデートみたいで嬉しい」

「そう思ってくれるなら安心したわ。最近やたら王子のこと気にかけてるしなぁ?」

「違っ!私は、」

「わかってるって。冗談。結構楽しそうにしてたじゃん、あいつ。いい気分転換になったんじゃねーの?」

「うん…」

私が王子くんを気にかけているのは確かだけれど、妙な誤解を与えるような振る舞いはしていないはず。
あっけらかんとした表情で、朗らかに笑うユキくん。
その笑顔にホッと胸を撫で下ろした。

「そうだユキくん。良かったらこれ、貰ってくれる?」

「ん?」

「さっきね、向こうの岩場で拾ったんだ」

ポケットに忍ばせていたそれを、二つ取り出す。

「へぇ、シーグラス?」

「シーグラス…って言うの?」

ガラス瓶などの破片が波の行き来で磨耗され、小さな楕円形に変化したもの。
さくらんぼくらいの大きさの、瑠璃色をしたシーグラス。

「自然の力で偶然出来上がるものだからな。 "浜辺の宝石" とか "人魚の涙" とも言われるらしい」

「へぇ!そんな素敵な呼ばれ方されてるんだ」

「子どもの頃拾った気もするけど。改めて見ると綺麗なもんだな」

私の掌からひとつ摘み上げたユキくんは、それを目の前にかざした。
刷りガラスのような青の向こう側から、太陽の光がこぼれ射す。


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