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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第11章 プレッシャー



これまでスポーツとは無縁だったという王子くん。
ハイジくんに巻き込まれる形で始めた長距離で着実に成果が付いてきているのは、彼の強さに他ならない。
どんなに厳しい境遇でも、王子くんが途中で諦めたことは一度もない。
記録会で他の選手から大きく引き離されていても、あまりにタイムが奮わず強制終了させられそうになっても。
王子くんが自ら足を止めたことはないのだ。


「舞さんの速度に合わせるって名目がなければこんなに余裕なかったかも。
自然って凄いですね。走ることが心地いいと思えたのは、初めてです」

「そっか…」

海を見渡す王子くんの穏やかな横顔は凪のよう。
清風を受けてなびく少し長めの白茶の髪が陽に透けて、一層明るく見える。
元々中性的な顔立ちの王子くんだけど、こうして見てみると改めて綺麗な子だ。



「やっぱ舞、走るの速くなったよな」

「ほんと?嬉しい。はぁ…気持ちいいねぇ」

「だな。アオタケの空気とは大違い」

「それ、誰かに向けて言ってる?」

「元ニコチン中毒の先輩」

「ふふっ。今頃先輩くしゃみしてるかも」

通り過ぎていく涼やかな風が、ジョギング後の体に癒やしをくれる。
自販機でスポーツドリンクを買って水分補給したあと、ただぼんやりと四人で波の行き来を眺めた。

「よーし。今度こそ昼飯に行くか!」

「まさか走って戻ろうなんて言わねーよな?」

「言わないよ。ゆっくり歩いて行こう」

ハイジくんの言葉を受け私たちは歩き出す。
走ってきた時と同じ道を、更にのんびりと。







「美味しーい!」

「な?腹ぺこにした甲斐があっただろう?」

「ハイジに言われると何か癇に障るよな。確かにめちゃ美味いけどさぁ」

「ですね…」

新鮮なお刺身がたっぷり乗った海鮮丼を前に、私たちは和気あいあいと昼食を摂る。
元々お腹が空いていたところに運動を加えたとあって、ハイジくんの言うとおり箸は進む。

「あ、そうだ。はい!ハイジくん!」

生徒が挙手する時のように腕を上げると、ハイジくんもまた、先生のように私を指す。

「はい、舞ちゃん」


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