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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第11章 プレッシャー



ハイジくんのスパルタっぷりにはとうに慣れてしまったのか。
諦め顔のまま、王子くんは呟いた。

渋々とはいえ彼自身が納得したなら…


「ねえ、私も一緒に走っていいかな…?」


速さを求められる走りは到底無理だし、練習も兼ねるとしたら邪魔にしかならないけれど。
そうでないのなら、一度だけでもみんなと走ってみたい。
恐る恐るハイジくんを伺えば、晴れやかな笑顔と弾む声が返ってきた。

「もちろんだ!じゃあ速さは舞ちゃんに合わせること。距離は2kmくらいにしておこう」

「はぁ…。最終的には付き合ってやる俺たちって、人が良すぎると思わねぇか?」

「ほんとですよ、あの鬼コーチ…。何を言い出すかわかったもんじゃない…」

遂にはハイジくんを鬼呼ばわりする王子くん。
ユキくんと共に言い足りない愚痴を吐き出しつつ、早速走り始めた。




波間で煌めく光の塊が宝石のようにも見える。
近づいては遠ざかる水面と、名残惜しそうに砂浜に留まる白いあぶく。
耳に心地いい波音。
風に乗る、潮の香り。
走りながらもすぐそこにある雄大な自然に意識が引っ張られる。
多摩川の土手でもなく、白樺湖の湖畔でもない。
初めて走る、海沿いの道。

速度は私に合わせてもらっているため、ゆったり。
スポーツウェアも着ていない4人組が揃ってジョギングをしている姿は、端からどう映るだろう。
そんなことを考えると少し可笑しくて、でもほんのひと時でもみんなと走る瞬間を共有できたことが嬉しくて。
そして、光を集める海原があまりにも美しくて。
私の頬は自然と綻んだ。





「もう2kmか?あっという間だったな」

「ですね。海を見ているうちにこんなところまで…」

最初にいた駐車場を眺めるユキくんと王子くん。
気づけばだいぶ離れた場所まで走ってきた。
呼吸が穏やかな三人とは違い、私の肩は自然と上下する。

「はぁっ、王子くんて、ほんと凄いよね」

「え?」

「だって私が練習に参加し始めた頃の王子くん、2kmの時点で倒れそうになってたよ?それなのに今は、全然息が乱れてないんだもん」

「そう言えば…そうですね」


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