第11章 プレッシャー
約1時間程みんなで談笑しながら過ごしていると、僅かに開けた窓の向こう側から潮の香りと波音が風に乗ってやってきた。
視界の端から入る太陽光が海面に広がり、眩しさが増す。
海水浴シーズンは終わっているため人はまばら。
目につくのは、砂浜を歩くカップルや波に乗るサーファーくらいのものだ。
駐車場に車を停め車外へ降り、揃って潮風を吸い込んだ。
「風が気持ちいいなぁ、王子」
「はい、清々しいですね。安全運転がどれ程ありがたいか、身に沁みます」
「ははっ、精進するよ。王子を走らせておいて俺は努力しないなんて、フェアじゃないからな」
王子くんの憎まれ口を物ともせず、ハイジくんは爽やかに笑った。
年上も年下も関係なくこんな風に思ったことを言い合えるのは、きっと仲がいい証拠。
二人を横目に、私とユキくんはこっそり笑い合った。
「腹減ったよなぁ。何か食うか、ハイジ?」
「もちろん調べてきたぞ。近くに海鮮丼が美味い店があるんだ」
「いいですね、海鮮丼」
「舞も魚介類好きだったよな?」
「うん、大好き!」
ちょうど昼時とあって、空腹で今にもお腹が鳴りそう。
美味しいと評判らしい海鮮丼に期待が膨らむ。
「昼飯もいいがその前に、だ」
沸き立つみんなの会話を遮るようにハイジくんはもうひとつ提案する。
「海沿いを走らないか?」
しん、と静まり返る。
はし、る……?
「こっの…陸上バカがっ!何のために遠路はるばるここまで来たんだよ!気分転換になりゃしねーだろうが!」
「……はぁ…来なきゃよかった…」
「待って王子くん!そんなことを言わないで!ハイジくん、何もここまで来て走らなくても!!」
急激に青白くなっていく王子くん。
今日の外出の一番の目的は、王子くんの気晴らし。
それなのに当の本人が消えゆきそうなほどその存在感を失くそうとしている。
これはまずいと、ハイジくんに詰め寄った。
「いや。練習のように走れと言っているんじゃない」
「じゃあ何のために走んだよ?」
「風を感じるためだ。さざ波の音を聞きながら、ゆったりとな。速さはどうでもいい」
「はぁ…。どうするよ、王子?」
呆れたように額を抑えたユキくんは、顔面蒼白になった後輩に問う。
「………苦しくない程度なら」