第11章 プレッシャー
「私に出来ること、何かある?」
ほんの少し目線を空へ投げ考える素振りを見せた王子くんは、数秒後改めて私に向き直ると、こう言った。
「気晴らしになることを教えてくれませんか?」
「気晴らし?」
「はい。漫画以外のことに時間を費やした試しがないからわからないんですよね。普段と違うことをしてみるのも、新たな気持ちで走りに向き合えるかと」
「どこかにお出掛けするのはいいかもしれないね」
「お出掛け…ですか…?インドアの僕には行き先が想像つかないのですが」
「そっか。どこがいいかなぁ…」
王子くんのことだから、騒がしい場所や人が多い街中なんかはきっと苦手。
自然が豊かな場所はどうだろう。
このところ気候もいいし、日常と違う地で美味しいものでも食べたら気分転換になるんじゃ…と考えを膨らませていた時。
「王子!話は聞いたぞ!」
聞き覚えのある明朗な声が頭上から響いてきた。
揃って見上げてみれば、そこには自転車に乗ったハイジくんの姿が。
「……どこから湧いたんですか」
「偶然通りかかってな」
「そんな偶然あります?舞さんだけならまだしもハイジさんまで…」
自転車を停め私たちのところまで降りてきたハイジくんは、やる気満々と言った様子で続ける。
「細かいことは気にするな。出掛けるというなら、プランは俺に任せろ!」
「はい…?まさかハイジさんの運転でどこか行こうっていうんじゃ…」
途端に王子くんの顔が歪む。
アオタケのみんなが言うには、ハイジくんは見かけによらずワイルドな運転をするそうで、王子くんはいつも車酔いでダウンしてしまうのだとか。
合宿で雨に打たれた夜、ハイジくんの車に乗せてもらった時にはそんな風に感じなかったけれど。
だいぶ気を遣って運転してくれたんだろうか…。
「ドライブがいいのか?それならレンタカーを手配してくるが」
「いやいやいやいや!いつも吐きまくってるのは誰のせいだと…」
「運転なら私がしようか?」
「え?舞ちゃん免許持ってたんだ」
ハイジくんは意外そうな顔をして、王子くんから私に視線を移した。
確かに車を運転している姿は今までに見せたことがなかったかもしれない。