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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第11章 プレッシャー



今日の練習も終わり、グラウンドから自転車で家に辿り着く。
空に橙色のベールが纏うこの時間帯は、日に日に秋めいた香りと風に変わっていく。
ニコチャン先輩とキングくんが公認記録を出した記録会から数週間。
季節は秋に移り変わろうとしていた。


「走るペース、ちょっと速くなったんじゃね?」

「え?はぁっ…、そう、かなぁ?」

ユキくんにランニングシューズをプレゼントしてもらった次の日から、私は約3kmのジョギングを始めた。
雨の日以外は走っているため、3kmという距離にもだいぶ慣れてきた。
ここ数年の運動不足からか最初は思うように脚が運べなかったけれど、近頃では走っている時の体が心なしか軽く感じられる。

毎日の練習後、こうして私のジョギングに付き合ってくれるユキくん。
こんなにのんびりとしたスピードではとてもトレーニングとは言えないし、一度ユキくんに話をしたことがあった。
一緒に走るのは、せめて箱根が終わってからにしてもらおうと。
けれどユキくんは自主練のうちだと言い張って、辞める様子はない。

気持ちはものすごく嬉しい。
ただ、厳しい練習メニューをこなした後の更なるジョギング。
オーバーワークにならないものかと私の方が心配になり、こっそりハイジくんに相談してみた。
すると「ユキが大丈夫だと言っているうちは大丈夫だ」と返答があり、内心ホッとした。
ハイジくん曰く、ユキくんならその辺りの調整はしっかり自覚しているだろうとのことだ。

遠慮の気持ちがある一方、ユキくんと新たな時間を共有できることに喜びを感じるのも本音。
今までは、走るユキくんの姿をひたすら目で追うだけだったから。
しかも大したスピードが出せなくても、茶化したり馬鹿にしたりせず最初から最後まで足並みを揃えてくれる。

また少し、ユキくんに近づけた気がするのだ。



「ねぇ、ユキくん、あれって…」

商店街のそばまで走ってきたところで、私はある人物を見つけた。
前方を走るその人。
フォームを見ただけで誰なのかがわかるくらい、みんなの走る姿は私の記憶に焼き付いている。


「王子だな。自主練か…?」


私たちは一旦足を止めた。


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