第10章 ただ、好きなだけ ※
「え…」
たった一言呟いたきり黙り込むユキくん。
やだ…こんなこと言っちゃダメだったのかな…。
「あ、泡風呂の入浴剤があったから。これならお互いにあんまり恥ずかしくないかと思ったんだけど…。ごめん、嫌なら一人で…」
「入るか」
「え?」
「一緒に」
「うん…」
「でも俺、ただ大人しく体洗って湯船に浸かるだけなんて、たぶん無理だけど」
「…うん、いいよ」
だってそのつもりでここまで来たんだもん。
それに、私にだって下心がある。
もっと、ユキくんを夢中にさせたい。
どんなに素敵な女の子がユキくんに近づいても、自信をもっていられるように。
「舞からそんなこと言ってくれるなんて、すげー嬉しい」
「…ほんと?」
「うん」
今日のデートでは、ユキくんに素敵なプレゼント、沢山貰った。
だから私も勇気を出して。
二人で過ごす時間なんだから、してもらうばかりじゃ嫌だ。
「えっとね、でも恥ずかしいからまだ来ちゃダメ!泡モコモコにしてくるから!あと、私が体洗って泡風呂に浸かってから入ってきてね!」
「りょーかい」
小さく笑うユキくんにホッとしつつ、泡風呂の準備をする。
バスタブに入浴剤を投入してお湯を溜めて、仕上げにジェットバスのスイッチを入れると…
まるで洋画で見るような、バスタブから溢れそうな泡が出来上がった。
「わ、すごーい!モコモコ!」
……いけない。
初めての泡風呂に興奮してる場合じゃなくて。
今からユキくんと二人で入るんだ、ここに。
煌々と照らしたままでは抵抗があって、バスルームの照明を数段階落とす。
宝石のピンクサファイアみたいな色が、幾分控えめに灯る。
楕円形のバスタブを埋め尽くす真っ白な泡。
ほわんと浮かび上がるその空間は、明らかに非日常のもの。
アメニティのボディソープで身体を磨き上げた後、バスルームの扉の隙間からユキくんを呼んだ。
泡でたっぷりのバスタブに足先からそっと体を沈める。
白く膨れ上がった湯面の下を目視することは困難で、ひとまず安心した。
「入るぞ?」
「はい、どうぞ!」
腰にタオルを巻いてくるのだろうか?
それとも全裸…?
男の人とお風呂に入るのなんて初めてだからそれすら分からなくて、ユキくんに背を向けて肩まで泡に浸かった。