第10章 ただ、好きなだけ ※
「あ、やぁっ…ん…」
あられもない声が喉から溢れ出す。
「かわい…」
ユキくんの囁きも唇で愛撫してくれる音も、耳の中へ流れ込んできて…
「は、ぁん…、だめ…ユキく…」
「俺もだめ。舞が感じてんの可愛い過ぎて…」
ピチャっという響きが鼓膜を伝って侵入した。
ユキくんの息づかいとぬるりとしたその感触に、また心臓が速く働き出す。
ひとしきり耳に与えられた刺激は、滑り落ちるように首筋に降りてくる。
「んんっ、はぁっ…」
「舞はここも弱いんだろ?」
「な…ん、で…?」
「前、首にキスしたらいやらしい声出してたじゃん?」
耳の後ろあたりを這っていくしっとりとした唇に平静を奪われながら、朧気な意識でユキくんの言う出来事を思い返してみる。
初めてキスした時だ。
ただでさえユキくんとのキスに夢見心地でいたというのに、イタズラのように首筋を吸われ、恥ずかしい声を漏らしてしまった。
忘れていて欲しかったのに…。
「そんなこと、覚えてたの?」
「あの時めちゃくちゃ興奮したから。あの時だけじゃねーぞ?合宿の夜、ここ触った時だって…」
ユキくんの指先が、控えめに私の胸に触れる。
「胸に触っていい、なんて。とんでもないこと言ってくれたよな。興奮した俺がどれだけ我慢したか、わかってんの?」
後頭部をユキくんの手のひらが包み、一度だけ唇が押し当てられた。
今目の前に見えるのは、真っ直ぐに私を見つめているユキくんの顔。
「…ごめん、なさい」
私だって冗談で言ったわけではない。
ユキくんになら、触られてもいいと思った。
でもその先の男の人の体の事情まで配慮できるほど、私には想像力がなくて…。
今更ながら申し訳なさにうつむく。
「別に謝んなくていいよ。今日、舞は俺のもんだろ?」
「うん…。もう、何も我慢しないで?」
「…それは、すんげープレイされてもいいってこと?」
「……」
すんげープレイって、何…?
想像すらできない。
痛いこと…とか…?
何か…怖くなってきた…。
「バッ…!冗談だし!何泣きそうになってんだよ!」
急に慌て出すユキくんを見て、我に返る。
冗談…そっか…。
泣きそうになんてなっていないけど、きっと酷く情けない顔をしていたとは思う。