第10章 ただ、好きなだけ ※
一歩部屋の中へ足を踏み入れるなり、カチャッと鳴り響くオートロックの音。
まるでそれは、何かの合図のようだった。
背後から温もりに包まれる。
私の体は二つの腕に捕らわれた。
「舞。すげー、好き…」
ユキくんの吐息が首筋を擽り、それだけで体が粟立つ感覚がした。
しかもその声は今までに聞いたことがないほどに艶を帯びた音色。
背中からトクトクと伝わるユキくんの鼓動が、私のものと交わっていく。
心拍が上昇し、呼吸がスムーズにいかない。
ユキくんに触れられるといつもそうだ。
顔に熱が集まり、やたら暑い。
倒れる寸前と言っても過言ではないほどに、体のあらゆる機能がおかしくなっているのがわかる。
けれども解放されたいなんて微塵も思わない。
それどころか、まだユキくんの体温を欲してしまう自分がいる。
後ろから抱き締められただけでこんな状態になるなんて、我ながら先が思いやられる。
ユキくんの手に自分の手を重ね、密かに長く息を吐いた。
乱れた呼吸を整えるように。
「いきなり襲いかかったりしねーから。怖がんな」
「…怖くなんか、ないよ?」
「ほんとか?」
「うん…。でも、すっごく緊張してる…」
「気が合うな。俺も」
首を後ろに傾けたところにはユキくんの顔が待っていて、ちゅっ、と一度だけ唇が触れる。
「緊張解そっか。キス、しよ」
「うん…。ユキくんのキス、好き」
「あんま可愛いこと言うなって。これでも抑えてんだからさ…」
困ったように笑ったあと、お互いの唇を重ねた。
今度は最初から濃厚なキス。
行き来する生温かい舌の動きは、今までで一番情熱的。
体ごと、心ごと、全部攫われてしまうような。
激しく食らいつくみたいな口づけは、息する隙間もないくらい。
「…っ、ぁ、ふぅ、…」
思わず声が漏れる。
浮遊感にも似た感覚。
自分の意識がここにない気すらしてしまう。
宙のどこかをふわふわ漂っているかのような心地よさと、その合間に突如訪れる鳥肌が立つほどの昂揚感。
ちゅ…っ
小さな音を立てて私の唇から離れていったユキくんは、今度は耳に顔を埋めた。
擽ったいくらいの加減で、耳介を舌が這う。