第10章 ただ、好きなだけ ※
さて。次は映画だ。
前から見たかったラブストーリーだからこれもまた楽しみ。
ここから映画館へは、電車で移動しなくてはいけない。
「駅までの道は…」
ユキくんがスマホの地図アプリで調べてくれる。
「こっちのが近道か。行こう」
食事のお店のリサーチだったり、ここに来るまでの段取りだったり。
やっぱりユキくんてテキパキしててスマートだ。
きっとこういうところもモテる要素のひとつなんだろうな。
……って、ダメダメ!
折角のデートなんだから、ユキくんと楽しむことだけ考えなくちゃ。
余計な思考を振り払い、慌ててユキくんの歩幅に合わせて歩く。
「……」
「……」
あれ…?
何か、この辺りって…。
今歩いている道の先。
これは…アレ、だよね…。
独特な雰囲気の…ある程度の歳になればピンとくる。
大人がお泊まりする建物が何件か連なって…。
「ユキくん…」
「や、違うからな!?駅への近道だから通ってるだけで、今連れ込もうと企んでるわけじゃ!何かちょっと色々間違えた!」
余裕のあったさっきまでとは違い、突如訪れたこの状況に慌てふためくユキくん。
逆に私は、妙に冷静にその言葉を受け止める。
「……間違い、かな?」
「……え?」
「私は…間違いだなんて、思わない…けど…」
「……」
今日は朝まで二人で過ごすつもりだった。
だから私はそのタイミングが今ここであっても、間違いだなんて思わない。
ユキくんと、もっと沢山一緒にいたい。
今までで一番長くて素敵な時間を過ごしたい。
「 "間違い" って、舞とそうなることが間違いって意味じゃねぇよ…?」
「うん…わかってる。でも二人でこんなところにいると…」
偶然にしても、こんな場所に立ち入ってしまったこと。
私は嫌だなんて全く思わなくて…。
どうしよう…女からこんなこと言うの、はしたないのかな。
ユキくんに引かれるんじゃないかと思うと、上手く言葉が続かない。
「……白状するとさ」
「?」
「どんな風に舞を誘おうか、ずっと悩んでた。だから…」
ユキくんの両手が、私の体を優しく包む。
「舞が俺と同じ気持ちでいてくれることがわかって、嬉しい。けど男としては、何か情けないよな…」