第10章 ただ、好きなだけ ※
みんなの練習を手伝う合間に少しずつランニングして、3kmくらい楽に走れるようにならなくちゃ。
高校まではテニス部の練習で走っていたし、何とかなるはず!
ユキくんがプレゼントしてくれたシューズ、俄然頑張ろうという気持ちが湧いてくる。
「んじゃ、飯食いに行くか」
「うん」
真夏のデートだけど、ユキくんは約束どおりずっと手を繋いでいてくれる。
しっとり汗ばむお互いの掌。
不思議と不快感なんてなくて、むしろもっと近づきたいくらい。
「腹減った?」
「さっきからお腹鳴ってる」
「そりゃ丁度いい。いっぱい食えよー」
今から向かうのは、スペイン料理のバル。
私が美味しい魚介類が食べたいとリクエストしたら、色々調べて予約してくれた。
足を踏み入れた店内は、ダウンライトの光が落ち着いた雰囲気を醸し出す大人っぽい空間。
ジャズピアノのBGMがまたお洒落なムード。
「素敵なお店だね」
「誕生日のデートだからな。特別感出したかったんだ」
「嬉しい」
高級レストランほどの緊張感はなく、けれどもスッと背筋を伸ばして食事をしたくなるようなお店。
二人であれこれ相談しながら、早速数種類の料理を注文した。
サングリアで乾杯したあと何気ないお喋りをしている間に、順にお皿が届く。
パエリア、生ハムのサラダ、イベリコ豚。
代表的なスペイン料理に舌鼓を打つ。
「これ、スペインではお祝いの時に食べる家庭料理なんだって」
「わぁ…!すっごく美味しそう!」
この店の売りらしい、サルスエラという数種類の魚介のブイヤベース。
パッと見ただけでも、海老、イカ、ムール貝、白身魚、帆立…と魚介がたっぷり。
ユキくんが取り分けてくれたそれを口の中へ入れると、途端に鳥肌が立つ。
「何これ…こんなに美味しいもの食べたの初めて!」
「激ウマ!」
「はぁ…幸せ過ぎる…」
次々運ばれてくる料理に、少し頼みすぎたかな?なんて密かに話していたけれど、何のことはない。
二人できっちり完食してデザートまで頼んでしまった。
「ごちそうさまでした。ほんっとうに美味しかった!また来たいなぁ」
「じゃあ特別な日の食事はここにするか」
「うん」
気持ちもお腹も幸せいっぱい。
これ以上ないくらいに満足。