第10章 ただ、好きなだけ ※
ユキくんが声を掛けてくれた店員さんはシューフィッターと呼ばれる人で、要するに靴選びのプロ。
ランニング初心者であることや目標としている距離などを伝えた後、足の形やサイズを見てもらい、何足か持ってきてもらう。
「ランニングシューズは、踵をしっかり合わせてから靴紐を結ぶのかポイントなんですよ」
「へぇ!そうなんですね」
どうやら、普段靴を履くのとは勝手が違うらしい。
代わる代わる試し履きをして少し店内を歩いてみたりもすると、履き心地が微妙に違うのがわかる。
「あ、これいいかも」
三足目に足を入れて立った瞬間、足全体にフィットしている感覚がする。
「こちらのタイプでしたら、他のお色もありますが」
店員の女性は今履いているブラックとは別に、ネイビーとピンク、ペパーミントグリーンのシューズを持ってきてくれた。
「わぁ、迷っちゃう。ユキくん、どれがいいと思う?」
「舞が気に入った色にすればいいんじゃね?」
「ペパーミントグリーン可愛いなぁ。でも私には派手かも…」
「んなことねぇよ。普段の服装に合わせる必要ないだろ?ランニング専用のシューズなんだから。冒険するのもアリだと思う」
「そっか…。そうだよね!」
みんなの履いている靴を思い出してみる。
王子くんはレッド、神童くんはブルー、ジョータくんはグリーン、キングくんはイエロー、ムサくんはピンク…あれ、戦隊モノみたいだ。
えっと…そうそう、ユキくんはパープルとピンクのコンビ。
みんな鮮やかなシューズが個性的で様になっていてかっこいい。
いつも靴を買うときには手持ちの服との相性を考えて決めるけれど、ユキくんの言うとおりランニングのための靴なのだから、その必要はない。
ユキくんのひと言で、俄然第一印象で惹かれた色が魅力的に見えてくる。
「ベーシックな色もいいけど…やっぱりこの色好きだなぁ。これに決めちゃっていい?」
「おう。いいじゃん」
ペパーミントグリーンにブラックのラインのランニングシューズ。
私の運命の一足。
ユキくんからの、初めてのプレゼント。
「ほんとにありがとう、ユキくん。お手入れしながら大事に履くね 」
「よーし、ボロボロになるまで走るぞ」
「なんか陸上部の人みたい」
「陸上部だよっ、一応!」