第1章 ふわり、舞う
カケルくんは確かにすごいランナーなんだと思う。
ハイジくんがそう評価していたし、今日彼の走りを目の当たりにして素人ながらそう感じた。
ここ数日の10人の記録ノートを改めて見直してみる。
今の時点で公認記録に到達しているのは、カケルくんとハイジくんだけ。
予選会は10月。その前にエントリーの期日もあるし…。間に合うんだろうか…。
「まだまだ時間あるもん!記録会だって何度もあるんでしょ?きっと大丈夫だよ!」
「うん。そうだよね」
明るくそう言う葉菜子に同調する。
みんなを信じて私たちはサポートに徹しなきゃ。
改めて決意して、パソコンを閉じた。
それから数日。
アオタケメンバーは朝ジョグに加え、トラックのある練習場で夕方の本練習も開始した。
自主練として夜ジョグを始めたメンバーもいるとか。
ハイジくんが考えた練習メニューは見るからにハード。
カケルくんはあっさりこなしているけれど、他のメンバーは正直きつそうだ。
「舞ねーちゃーん!スポドリちょうだーい!」
「俺もー」
恒例の朝練。
多摩川まで走り終えた城兄弟が、私のそばへやって来て倒れるように寝転がった。
「はい、どうぞ。ムサくんもね」
「ありがとうございます」
作ってきたスポドリを到着順に渡していく。
ユキくんと神童くんもほぼ同時に河川敷に入った。
「お疲れ様」
「サンキュ…」
肩で息をしたユキくんは、スポドリを受け取るなりグッタリ座り込んだ。
続いてキングくん、ニコチャン先輩、王子くんにハイジくん、全員が5km走り終えた。
「みんな聞いてくれ!明日からは多摩川までのルートを変更して、3kmプラスするからそのつもりで」
「はあぁ!?夕方の練習もあるのに、朝も距離増やすのかよ!?」
ユキくんが真っ先に異議を唱える。
「当然だ。みんな順調にタイムを縮めてきている。次は走れる距離を伸ばしていかないとな」
「あーあ…すっかりアオタケは陸上部みたいになっちまったなぁ」
「もう、れっきとした陸上部ですよ」
ハイジくんの練習メニューについて、キングくんはもはや諦め気味。
ムサくんはすんなり受け入れている。