第1章 ふわり、舞う
「これ、お礼。みんなで食べて?」
「いちご?」
「うん。今が旬だから美味しいよ」
「ほんと美味そうだな。でも勝手に売り物持ってったら、舞ちゃん親父さんに怒られるんじゃね?」
「大丈夫だよ。ちゃんとレジにお金入れとくから」
「そっかぁ?じゃあ、ありがと。みんなで食うよ」
「うん。またね」
「ああ、またよろしくな」
家を出る時はまだ薄暗かったのに、陽はすっかり昇りあたりは光が射している。
通りには段々人も多くなってきて、通勤や通学の時間になってきたことがわかる。
小さくなっていくユキくんの背中を見送り、私は家へと入った。
これからアオタケのみんながまず目指すところは、「記録会」と呼ばれるもの。
ハイジくんによれば、この記録会で公認記録(5kmを16分30秒以内、もしくは10kmを30分台)を出すことができなければ、次のステップへ進めないのだとか。
10人全員が公認記録を持っていることで初めて、箱根駅伝の「予選会」の出場資格が得られる。
そして予選会で入賞した上位10校のみが、箱根駅伝への切符を手に入れられるわけだ。
「はー、厳しい世界だなぁ」
ネットで箱根駅伝について調べてみれば、知らなかった情報が次々ヒットする。
「予選会を突破した10校プラス、前年の大会でシード権を持っている10校。計20校で大会は競われる…か。箱根駅伝は往路と復路があって…」
「お姉ちゃん!何調べてるの?」
リビングでパソコンと睨めっこしている後ろから、葉菜子が顔を覗かせた。
「箱根駅伝のこと。全然知らないなぁって思って」
「そうだね。お正月に大学生が走る大会ってくらいの知識しかないや」
「ハイジくんが教えてくれたんだけどね…」
あらかじめ聞いていた、「記録会」「公認記録」「予選会」のこと。
そして、往路と復路の経路や距離。
2日目は往路の合計タイムに復路のタイムを加算していくため、見た目の順位と実際の順位が異なり複雑なタイム計算をしなくてはいけないこと。
今調べて知り得た知識を、葉菜子にも伝える。
「カケルさんが言ってたとおりだ」
「何?」
「一人だけが速くてもダメなんだ、って。全員が高いレベルじゃないと箱根は目指せない、って」
カケルくんが、そんなことを…。