第10章 ただ、好きなだけ ※
「区民マラソンが春にあるんだって。一番短いコースで3km。これなら挑戦できそうでしょ?」
「へぇ。二人で走ったりもできるんだな」
ユキくんの視線の先は、私が参加しようと思っていた『女子3km』の部門ではなく、もう少し下。
一般的なマラソン大会というと、男女別に種目が決められていることがほとんど。
しかし『ペア部門』といって、男女の区別なくペア登録をしてスタートから並走し、一緒にゴールを目指す…という種目も設けられているらしい。
距離は元々私が挑戦しようと思っていたものと同じ、3km。
「どうせならペア部門出ようぜ」
「え?一緒に走ってくれるの?」
「楽しそうじゃん」
「でも私、全然速く走れないよ?ユキくん物足りないんじゃない?」
「いいんだよ、そんなの。舞と走ることに意味があんの」
嬉しい…。
思いがけずユキくんが私の思いつきに付き合ってくれることになった。
今までは、ただみんなの姿を見ているだけだった私と一緒に。
「プレゼント、正直アクセサリーとかバッグとかその辺想像してたんだけど」
「うん、それも素敵だけど…。今一番欲しい物がランニングシューズなの。プレゼントしてくれる?」
「そりゃ、舞が欲しいもんなら。つーか二人でマラソン大会走るとか爽やかカップルかよ。マジで半年前の俺からは想像できねぇわ」
「それを言ったら箱根駅伝を目指すことこそそうじゃないの?」
「それな。ハイジのせいでとんだ一年だよ」
口ではボヤいている風に見せているけれど、何だか楽しそう。
「おっし。じゃあとびきりの一足、探しにいくか!」
「うん!」
二駅先にユキくんがランニングシューズを買ったスポーツ用品店があるらしく、私たちはそこへ向かう。
到着したお店の中の一角には、色とりどりのシューズが大量に陳列されていた。
「これ、一体何が違うの?」
デザインの違い以外、素人目にはまるでわからない。
「俺も詳しくねーけど、足のサイズ以外に形とか甲の高さで合う合わないがあるらしい。あとクッション性に差があるみたいだな。まあここはプロに頼もう」