第10章 ただ、好きなだけ ※
シャワーを浴びてメイクして、髪も整えて。
買ったばかりのシフォンのワンピースに袖を通す。
慌ただしくデートの準備をしている間に日は落ちて、夜の帳が下りた。
机に置いたスマホからは、ユキくんが到着したことを知らせるLINEの通知音が響く。
「行ってきまーす!」
「はい、行ってらっしゃい」
キッチンに立つお母さんに声を掛けて靴を履いた。
今日は友達の家にお泊まり…と言ってある。が、きっとバレバレだろう。
何も詮索してこない母に感謝しつつ、玄関を出る。
「お迎えありがとう」
「どういたしまして」
スマホを触っていたユキくんはボトムスのポケットにそれを収めると、私に向き直る。
「いいな、その格好。似合ってる」
「ほんと?」
「ああ。うちの彼女が一番可愛い」
「ふふっ、それはどうも」
ふざけて笑いながら、手を繋いで指を絡めて。
始まったばかりのデートなのに、もう楽しい。
ユキくんと一緒にいると、いつも勝手に頬が綻ぶのがわかる。
これから食事をして、前から見たかった映画を観る予定。
夜のデートだからのんびりとした過ごし方だけれど、普段練習で忙しくしている分、二人でゆっくりしたい。
ディナーの予約をしてあるお店へ向かうその前に、私へのプレゼントを選びに行こうとユキくんが提案してくれた。
本音を言えば、こんな風にデートできるだけで十分。
でも「俺が何かプレゼントしたいから」なんて言ってくれたユキくんに、今日は甘えてしまおうと思う。
「欲しいもん決まったか?」
「うん。あのね、ランニングシューズ」
ユキくんは意表を突かれたように、ポカンと口を開けた。
「……ランニングシューズ?舞、走んの?」
「うん。みんなを見てたらね、走るのってすごいな、素敵だなって思って」
アオタケのみんなの姿には、いつも魅せられる。
一歩一歩地面を蹴り、まるで風とひとつになったかのようにひたすら前へ駆ける姿。
始めは手に汗を握ってただただ応援するだけだったのに、今は、ほんの少しだけでもみんなと同じ風景を感じてみたいと思うようになった。
「あ、でもユキくんたちみたいに何十kmも走るなんて無理だよ!?ほら、これ」
あるサイトのホームページを表示させて、ユキくんにスマホを見せる。