第10章 ただ、好きなだけ ※
「舞チャン…?怒ってる?」
「怒ってないよ。ユキくんはモテるタイプの人なんだろうなって思ってたし」
「んなことねーよ…」
そんなことあるよ。
優しくて気遣いもできてノリも良くて。
顔立ちだって整っていて、お洒落で、頭もいい。
むしろモテる要素だらけ。
「ジョージくんが言ってたのは、本当?」
「……まあ。でも軽く誘われただけっつーか。別に本気じゃねーよ、あんなの」
「そうなんだ… 」
「やっぱ怒ってね…?」
「怒ってないよ、本当に。でも、ヤキモチは妬いてる」
「……」
「色っぽい女の子に迫られて、揺れた…?」
「んなわけねぇだろ。俺には舞だけ。絶対」
そう言って、真っ直ぐに私の瞳と向き合ってくれる。
途端に、自分の子ども染みた嫉妬が恥ずかしくなる。
ユキくんの気持ちを疑ったことなんて一度もないし、私が心から信じられる人。
けれど私以外の女の子がユキくんに迫っていた、という事実を知ってしまうと、漠然と不安になる。
魅力的な女の子なんて、ユキくんの周りにきっと大勢いる。
それなのに私を選んでくれたのはどうして…?なんて自信がなくなってきて…。
「舞、まだ不安?」
ユキくんの静かな口調は、ちゃんと私の気持ちに寄り添ってくれている。
私が話しやすい空気にしてくれている。
ダメだ。ユキくんは何も悪くないのに、こんな雰囲気、困るよね… 。
大体今から待ちに待ったデートなのに、卑屈な私見せるの、嫌だ…。
「ううん。もう大丈夫。今日、デザートもご馳走してね」
「…え?ああ、もちろん」
「あと、ずっと手繋いでいて欲しい」
「そんなの頼まれなくたってするし」
「ほんと?」
「うん」
「それから…」
「何?」
「いっぱい、ワガママ聞いて?」
「いくらでも」
空気を変えるように、冗談めかして甘える。
ユキくんの彼女は私。
今日はめいっぱい独占して、私のことだけ考えていてもらうんだから。
「帰るか?デートの用意、時間掛かるだろ?」
「うん」
影が伸びる夏の夕暮れを、並んで歩く。
触れ合えるほどそばにいるけれど、まだまだ知らないユキくんが沢山。
もっと知りたい。
ユキくんの色んな顔が見たい。
急速に増してゆく独占欲。
これから夜が更けていくと共に、もっと私たち、近づけるのかな。