第9章 夏の星座 ―ユキside―
「何で言わねーんだよっ!」
「だ…だって…」
「いや…、違うな。ごめん、聞かなかった俺が悪いわ…」
明日誕生日だからお祝いして〜!…とか。
舞はそういうこと言うタイプの女じゃない。
練習に意識引っ張られ過ぎてた。
練習に集中させてくれる舞の気遣いに甘えてた。
明日、舞は東京に帰ってしまう。
二人きりで祝えるとしたら、今夜0時を過ぎたタイミングだけ。
「……コンビニ行くぞ」
「えっ?今から!?」
舞の手をとって、ベンチから立ち上がる。
せめて美味いスイーツとアルコールでも買って、お祝いしたい。
「付き合って初めての誕生日だろ?舞にちゃんと "おめでとう" って言いたい」
「嬉しいよ?嬉しいけど…ユキくん明日も練習が…」
「0時に二人でお祝いしたら、すぐに寝るから。な?」
「うぅーん…」
「俺、朝強いってさっき言っただろ?大丈夫だから。ほら、迷ってるうちに日付変わっちまうぞ」
「…うん」
腕時計を確認すると、時刻は22時半。
コンビニまで歩いて行って買い物して戻ってきても、まだ時間に余裕はある。
俺たちは静まり返った夜道を歩き出した。
手を繋いだまま視線を空へ投げると、一面に広がる星屑が見える。
もし舞がこの合宿に来ていなかったら、こんな風に夏の星座を眺めることもなかったんだろうな。
疲れ果てた末、きっと毎日この時間には熟睡していたはず。
舞と過ごす瞬間のひとつひとつが、やっぱり愛おしい。
「ほんとに星が綺麗…。夏の大三角ってあったよね?ベガと…なんだっけ?」
「ベガ、アルタイル、デネブだな。あれじゃねぇのかなぁ?」
「どれ?」
「ベガは一番光を放ってて見つけやすいんだよ。ほら、あそこ」
東の空に一際輝く一等星を指す。
「ほんとだ。すぐわかるね」
「左下がデネブで、そっから真っ直ぐ右側見て」
「あ、あれがアルタイル?」
「たぶんな」
「さすがユキくん!星座詳しいの?」
「詳しくはねーけど。学校で習ったから」
「え!それだけ!?学校で習ったのは私も同じはずなのに…全然覚えてない…。これが秀才と凡人の違い…?」
「なんだよそれ」
「出会うのがもう少し早かったら、勉強教えてもらえたのになぁ」