第9章 夏の星座 ―ユキside―
あと数センチ指をずらしたら、膨らみに触れてしまう。
これ以上は、まずい。
ここまでだ。
理性を目一杯働かせ、卑猥な感情を滅するかのように舞を力強く抱き締めた。
「ユキくん、すき…」
耳元で小さく囁かれた可愛らしい声。
折角押さえ込んだ本能が暴発しそうで、本気で困る…。
「俺も…」
「合宿中にデートできるなんて、思わなかった」
舞は照れ笑いをしたあと、俺の首筋に頬を寄せる。
「デートって呼んでくれんの?これ」
「え?違うの?」
「いや、手間も金もかけてないから。デートにカウントしていいもんかと…」
「特別な場所に行かなくたって立派なデートだよ。幸せだもん」
舞の言葉がじんわりと染みる。
「俺もだよ。舞と居られて、幸せだ」
自然とまた、唇が重なる。
言葉で好きだと伝えたくなったり、キスに乗せて想いを届けたくなったり。
舞といると、心が素直になれる。
「こういうデートもいいけどさ。どこか行きたいとこあったらまた教えてくれよ。リサーチしとくし」
「わ、頼もしい!」
「普通のデートもしたいだろ?」
「会う時って8割ジャージだしね」
「お互いにな」
初めてお洒落してる舞を見たのは、合コンの時。
練習の時はメイクしてるのかしてないのかわからないくらい化粧っ気がなくて、服装も動きやすいジャージ。
だからこそ新鮮だった。
普段は束ねてる髪の毛を下ろして、耳には小さなイヤリング。
カールした睫毛、ベージュピンクに潤った唇、春色のトップスに女らしい膝下丈のスカート。
あの時改めて、やっぱり可愛い子だな…なんて思ったっけ。
一緒に合コンに行ったダチに狙われたのもわかる。
まあ、すぐに阻止したけど。
「そういやさ。舞の誕生日いつ?そこは絶対何がなんでも空けとく」
「あー…、実はね…」
言い淀んだ舞が、俺から目を逸らす。
「……明日、なの…」
……あした?
アシタ?
明日?
「……はあぁ!?明日っ!?」
勝手に素っ頓狂な声が上がる。
そりゃそうだろ、聞いてねーよ!!
明日って…明日!?