第9章 夏の星座 ―ユキside―
「自分が見つけた目標じゃなくてもいいんだってな。
ハイジがそこまでこだわる箱根駅伝って何なのか。長距離を諦めた先輩がもう一度挑戦する気になったのは何故か。カケルがひたすら走り続ける理由は…?
みんなを駆り立てるだけの魅力があるのかもしれない。探りながらでもいい、今は本気で走ってるメンバーに付いてってみるのもアリかも…そんな風に思えたんだよ」
「そっか」
静かに聞いてくれていた舞は、ひとつ頷いた。
「俺さ、去年司法試験受ける時、周りに散々言われたんだ。まだ早い、無理だ、大学院に進んでから、とか色々。教授にも学部の連中にも」
「そうだったんだ…」
「ああ。だから正直、ハイジの気持ちわからなくはなかったんだよ。
周りにとやかく言われても、貫きたい夢があるってこと」
目指したい気持ちは抗いようがない。
踏み出すのは "今" だって自分が思うのなら、その衝動を誤魔化すのは酷く困難だ。
人にバカにされたってなんだって、何もしないまま後悔する時が来たら、その時こそ自分自身に失望する。
きっと、夢が叶わなかったときよりも。
夢を語るハイジが、自分自身とだぶって見えた。
「ユキくんも苦しい思いしたんだ。夢を否定されるのって、辛いよね…」
「まーな。でもアオタケのみんなは違ってさ。
ムサや神童は俺ならできるって励ましてくれたし、キングと先輩は挑戦するのは自由だろって背中押してくれて。王子はまあ…王子のままだったけど」
「ふふっ、想像つく」
「ハイジは、努力してきたならやるべきだって。夜食まで作ってくれた」
「ハイジくんらしいなぁ」
去年の今頃は、自分が目指すべき将来のために必死に勉強していた。
心強かった。見守ってくれたみんなの存在が。
「それで今度は、ユキくんがハイジくんを支えようと思ったの?」
「そんな立派なもんじゃねーよ。でも、ほんのちょっとだけな?ほんのちょっとだけ…ハイジの夢に付き合ってやるか、くらいには思ってたんだ。最初は」
「今は?」
「今は…俺の夢にもなった。悪くねぇよ、走るの。…って、言わせんじゃねー。恥ずかしいだろうが」
「ユキくんって照れ屋さんだよね」
「照れ屋さんとか言うな」
「あと、寂しがり屋?」
「…そうだよ」
「え?」
俺の返答が意外だったのか、舞の目が丸くなった。