第9章 夏の星座 ―ユキside―
はしゃいで汗を掻いた俺たちは、順番にシャワーを済ませる。
リビングで風呂が空くのを待っているところに、洗いざらしの長い髪を拭きながらニコチャン先輩がやってきた。
ここにいるのは、俺と先輩の二人だけ。
前々から頭の片隅にあった、ある悩み。
持ちかけてみるなら、今か…?
「先輩」
「あん?」
「人生のセンパイとして、ちょっと聞きたいんすけど」
「何だよ、改まって」
「女誘うとき、先輩どうしてます?」
「誘う…?ああ、 "アッチ" ね。舞パパの許可が下りたもんなぁ?」
「それは関係なくて。で、どうやって誘うんすか?」
「ラブホ行かね?つって」
「チッ」
「舌打ち!?俺一応年上だぞ!」
「ラブホ行かね?つって誘うタイプじゃないでしょーが、舞は。ぜってーチャラいと思われる。ほんとガサツだな先輩は」
「何で俺に聞いた!?大体お前は年下のくせに年長者を敬おうって気持ちがナンタラカンタラ…」
ダメだ、参考になりゃしねぇ。
その辺のデリカシー保った誘い方しつつ女をリードできそうなのは…神童か。
でも年下にそんなこと聞くのはなぁ…。
俺にもプライドってもんがあるし。
「あ。舞ちゃん」
「は!?」
「どうしたの?何か揉めてる?」
タイミング悪く舞がやってきてしまった。
俺と先輩の顔を見比べながら、心配そうに小首を傾げている。
「聞いてくれよ舞ちゃん。わざわざユキの相談に乗ってやったってのに、こいつ俺を邪険に扱うの。どう思うよ?」
「あ、それはダメだよ、ユキくん。大人で頼りになって、すっごくいい先輩じゃない」
「そうだそうだ。もっと言ってやれ」
あのなぁ!「ラブホ行かね?」って女誘うような人間は、大人じゃなくてオッサンって呼ぶんだよっ!
……と叫びたいところだが、そんなこと言ったら俺の悩みまで暴露する羽目になってしまう。
「……参考ニナリマシタ先輩。アリガトウゴザイマス…」
「分かりゃいいんだよ 」
ぐぅっ、解せぬっ!!
こんなことなら恥を忍んで、始めから神童に相談しておきゃ良かった。
ノソノソ去っていく先輩を見ながらそう思っていた時、甘い囁きに胸が跳ねた。
「ユキくん、二階で待ってる。シャワー浴びたら迎えに来て?」
……はい、喜んで。