第7章 漆
生きていてくれたらそれだけでよかった。
生きていてくれたら、貴方の隣で笑っていれたの?
想いが通じあっていたの?
『っ…しは……っ…きょう…じゅろ…さっ…』
炭「さん…煉獄さんは強く生き抜いて欲しいと言っていました。」
強く、いつも杏寿郎が言っていた言葉だった。
どんな時も強くあれ、心を囚われずにひたむきに強くなれと。
真の強さは己の努力次第だと叩き込まれてきたじゃないか。
辛くて苦しい鍛錬を乗り越えてきた。
命懸けで教えてくれた、この辛さを乗り越えずして杏寿郎さんから教わったこの力は使いこなせない。
杏寿郎から貰った簪を見つめ、折れないようにぎゅっと握りしめる。
受け継いだこの力を、悲しみの連鎖を断ち切る為に鬼殺隊がいる。
涙を拭い今まで束ねていた結紐を解く。
髪を束ね杏寿郎から貰った簪で留めた後に深呼吸をする。
頭の中がスーッと冷静さをとりもどしていく。
『竈門くん…体調も優れないのに、杏寿郎さんの言葉を届けてくれてありがとう…。目が覚めたよ。』
先程まで悲しみに包まれていたの匂いは無くなり、今は杏寿郎同様に少しばかり穏やかな匂いに変わっていた。
それだけで炭治郎は身を削ってでも、伝えに来てよかったと心から思えた。
千「お待たせしました。これではないかと思うのですが…」
襖が開き、顔を出した千寿郎が差し出したのは二十一代目炎柱ノ書と書かれた本だった。