第7章 漆
千寿郎は炭治郎から兄である杏寿郎の最後を聞き、静かに涙を流していた。
千「そうですか…兄は最後まで立派に…ありがとうございます…」
静かに頭を下げる千寿郎に炭治郎は慌てて頭を下げる。
礼を言われる筋合いがなかった、己の力が及ばなかったから。
千「気になさらないでください、兄もきっとそう言いましたよね?父がよく見ていた書物には心当たりがあります…持ってきますので少々お待ちください」
そう言いながら部屋を後にした千寿郎。今この空間には炭治郎とだけ。
『竈門くん。体調大丈夫なの?』
先程よりも顔色の悪い炭治郎には心配そうに見つめる。
相当キツイのか額には少しばかり汗をかいている。
蝶屋敷からここまで意外と距離がある、体調が悪い者が無理をしたら炭治郎のようになるのも無理もない。
炭「だ、いじょうぶです…煉獄さんの言伝をまだ伝えていませんから…」
杏寿郎との最後の約束を守る為に蝶屋敷を抜け出してきた。
伝えることも出来ずに帰る訳にはいくまい。
その気持ちだけが炭治郎を動かしていた。
『竈門くんの気持ちはわかった。だけど、伝えたらすぐ戻ること。送っていくからね。』
はい。と弱々しく返事した彼に困った笑みを浮かべる。
自分の体調など気にせずに人とした約束を守る為だけに無理をする、優しさの塊なのだろう。
炭治郎といると不思議と心が温まる気がする。