第6章 陸
「さ…きて…」
微睡みの中で誰かの声がする。
意識を浮上させたくても瞼が重く上手く目を覚ますことができない。
「さん…」
ゆさゆさと身体を揺さぶられる感覚に重たかった瞼をゆっくりと開く、ぼんやりと視界が歪む傍らに見知った炎のような髪を視界に捉えた。
『ん…千…寿郎…く…ん?』
徐々に意識が戻ってきて重だるい身体を起こせば心配そうに見つめる千寿郎と目が合った。
身体のあちこちが痛い、どうやら昨日あのまま縁側で眠ってしまっていたようだ。
千「起こしてしまうのが遅くなってすみません…僕も眠ってしまっていたようで…」
『いいの、それより私の方こそごめんね、千寿郎くんもここで寝てしまって風邪は引いていない?』
しゅんと項垂れる彼の頭を優しく撫でれば大丈夫です。と千寿郎は弱々しく笑った。
兄を失った傷が癒えていないのだろう、大きな瞳は泣き腫れていた。
千「朝餉を用意しました。僕は庭の掃除をしてきます。温かいうちに召し上がってください。」
そう言いながら立ち上がる千寿郎にありがとうと伝えればぺこりと頭を下げて庭の方に歩いていった。