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夢幻

第5章 伍







千寿郎は泣き疲れてしまったのか杏寿郎の横たわる布団の傍らに丸まって眠っている。
明日になれば葬儀が執り行われ、杏寿郎の肉体も土に埋められ自然に還ってしまう。
少しでも長く傍に居たいという気持ちはも千寿郎も同じだった。






それともう一羽もまた同じ気持ちだった。






バサッ






『君は、師範の鎹鴉だね。』





眠る千寿郎の頭を優しく撫でながら縁側の方を向けば、一羽の鴉が立っていた。
トコトコと小動物特有の歩き方で杏寿郎の眠る布団に近づいていく。
ジッと杏寿郎を見つめたあと鴉は杏寿郎の顔の近くに丸くなり腰を据えた。





クルルと喉を鳴らし杏寿郎の頬に擦り寄るその姿は、主人を亡くし悲しむように見えた。





『そう、だよね…君も千寿郎君と同じくらい長く師範と時を共にしていたんだよね…』





真っ黒な小さな瞳からポロリと雫が零れ落ちた。
どんな戦場でも杏寿郎の為に伝令をし、共に煉獄邸に帰ってきた存在だ。
主人を亡くして悲しむ想いには人も生き物も関係の無いものなのだ。





「クァ…苦シカッタヨナ、イツモ寂シソウナ顔シテタ、オレナニモデキナカッタケドガ来テカラ杏寿郎ニモ笑顔ガ戻ッタンダ。」






頬擦りをしながら語る鴉からの言葉にの目頭に再び熱がやどる。





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