第40章 主として、親として
「わかった。まず、気持ちを聞かせてくれてありがとう。」
「はい。」
「じゃあ、天女は帰らないという選択をするんだね?」
「…はい。」
「…これから言う言葉は幸の主としての言葉だ。」
(主として…。)
信玄様の厳格になった顔つきに背筋が伸びる。
「あいつはまだ若いから、これから沢山悩むだろうし、板挟みにもあっていくだろう。そういう時、幸の背中を押してやってくれ。」
「はい。」
「もう1つ、これは幸の親としての言葉だ。」
(親として…。)
幸村を小さい頃から見てきたからこそのなにかがあるのだろう。
「幸となんでも言い合える関係のままでいてくれ。
そして、あいつがなにかおかしなことをしようとする前に引き留めてくれ、俺がいなくなったあとでも。」
(いなくなったあと…?)
その言葉が引っかかった。
「信玄様、それって。」
「天女はもう信用出来るから伝えて置こうと思ってね。俺の体はもう長くはもたないんだ。今も薬で騙し騙しやっている。」
(そんな…。)
「幸村はこのことを知っているんですか?」
「ああ、幸も佐助も知っている。だから、名医をよく連れて来るさ。でもなかなか治りそうにないものだ。それに、仮に治ったとしても俺は幸より先に死ぬ。それは変わらない。」
(それはそうだけど…。)