第11章 A Gray Cat
「はい。沙羅ちゃんの分もくじ引いておいたよ」
「雛森ー! ありがとうっ!!」
ひしっと雛森に抱きつく沙羅の傍らで、恋次は前の席の吉良イヅルをつつく。
「おい、吉良。俺の分は?」
「早く取ってきなよ。さっき先生が『なんで一枚余ってるんだ』って騒いでたよ」
「オメーには助け合いの精神っつーもんがねーのか!」
「阿散井くんに助けられた覚えはないな」
「てめっ、この前消しゴム貸してやっただろーがっ!!」
「そこ! なに騒いでる!」
吉良の胸倉を掴みかかったところで担任のドスの効いた声が響き、恋次はさっと首を引っこめた。が、時すでに遅し。
「阿散井――そういや今日おまえの顔見るの初めてじゃないか? 実はここに組分けのくじが一枚残ってるんだが……誰の分か心当たりはないか?」
紙切れをぴらぴらとさせる担任に、恋次はできる限りの愛想笑いを浮かべてみせた。
「あーそれ多分俺のっす。やーおかしいな、さっき取ったつもりだったんすけど……」
「……馬鹿モンがァっ! 今日だけは遅れるなとあれだけ言っといたろうが!」
「ぎゃぶっ!!」
担任に踏みつけられている恋次に心の中で手を合わせながら、沙羅は「間に合ってよかった」とつくづく思うのであった。
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