第11章 A Gray Cat
かくして辿り着いた教室の前の廊下で、後ろの扉の隙間からちらりと中の様子を窺った沙羅と恋次はほっと息をついた。
「間に合った……」
厳密に言えばちっとも間に合ってはいない。始業時間はとうに過ぎており、霊術院きっての鬼教師と称されるクラス担任もどっかと教卓の前に腰をおろしている。
だが幸いにも今は実習の組分けをしている最中らしく、院生たちがあちこちにたむろしている教室内にこっそりと忍びこむのは容易かった。
「あ、おはよう沙羅ちゃん! 阿散井くんも! よかった、今日お休みかと思っちゃった」
「しーっ! 雛森、しーっ!」
ふたりの姿を見つけるなり話しかけてきたクラスメイトの雛森桃に必死に口の前で人さし指を立てて、沙羅と恋次はそそくさと席につく。
「あはは、阿散井くんはともかく沙羅ちゃんが遅刻なんて珍しいね」
「今日に限って目覚ましの電池が切れてて……まだ出発してなくてよかった。こんな日に遅刻したなんてバレたらただじゃ済まないもん」
教卓でいつものしかめっ面を浮かべている担任を横目に沙羅が盛大に溜め息をこぼすと、雛森はくすくすと笑って小さな紙切れを差しだした。