第11章 A Gray Cat
気まぐれな猫との出会いは突然に。
その朝、真央霊術院(しんおうれいじゅついん)の渡り廊下にはバタバタと忙しない足音が響きわたっていた。
「嘘でしょー! こんな日に寝坊なんて!」
霊術院の院生服に身を包んだ沙羅は、奇声をあげつつも速度を緩めることなく廊下を駆けぬけている。
この真央霊術院は尸魂界随一の死神養成教育機関であるだけに、その校舎はやたらと広い。下駄箱から教室までの距離の長さにうんざりしつつ、悪態をついたところでなんら現状を打破できるものではないと沙羅はただただ先を急いだ。
――と、渡り廊下を走り終えて曲がり角に差しかかった瞬間、反対側からかすかな霊圧の接近を察知する。
(危ない!)
すかさず身を反転させて進路を変えた直後、ガンッと鈍い音が響いた。
「~~~っ!」
石で殴られたような痛みを訴える額を押さえ、声すら出せずにうずくまる。すると目の前の人物も同じようにうずくまっていた。
「っつー……てめっ、同じ方向によけんじゃねえよ!」
「そっちこそ!」
互いに涙目になりながら顔をあげたところで、ふたり同時にあ、と口をあけた。
「恋次!」
「沙羅じゃねーか! なんでまだこんなとこにいんだよ」
「それはこっちの台詞――って、そんなこと言ってる場合じゃない!」
「あ、おいっ! 抜けがけすんなよ!」
再び腰をあげて走りだした沙羅に続いて、すぐさま恋次もあとを追いかける。
「遅刻魔の恋次と一緒にされちゃ迷惑なの!」
「そうはさせるか! こうなったら道連れだ!」
「縁起でもないこと言わないでよー!」
もとより時間に正確な沙羅はともかく、遅刻常習犯の恋次までもがここまで焦っている理由は至って明白。今日はふたりが所属する三回生第一組が、同期生の中でも初となる虚の昇華実習を行う日であった。
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