第10章 Blue Sky
「――さ、いい加減中に戻りましょ。また風邪をぶり返しでもしたらあたしが浮竹隊長に大目玉くらうわ」
パンパンと芝生を掃いながら立ちあがる乱菊に倣って腰を上げながら、沙羅は「そうだ」と切りだした。
「話は全然変わるんだけど、乱菊って前世の記憶ある?」
「本当にいきなりねぇ。さっぱり憶えてないわ。もう何百年も前のことだしね。沙羅は?」
「私もまったく……。でも最近よく変な夢を見るの」
「どんな?」
「多分……前世で死ぬ間際の」
「うわ。なんか暗いわね、それ」
眉をしかめる乱菊に頷きつつ、沙羅はあの夢のことを思い返していた。
死ぬな、と自分に向かって叫ぶ声。同時に心臓を突きぬけた激痛。
夢にしてはあまりに現実味がありすぎた。
その一部始終を話して聞かせると、乱菊は腕組みして首を捻った。
「ふーん……。でも、不思議よね」
「何が?」
「こっちに転生した直後ならまだしも、今になってそんな夢を見るなんて」
「確かに……そうだね」
前世の記憶なんてとうに失くしていたのに。そもそもあの夢を見るようになったのは、現世で初めてあの公園に行って――
「……っ」
つきん、と胸が軋んだ。
それはあのときに出逢った彼のことを思い出したからではなくて。
そうじゃなくて、何か大切なことを忘れているような気がして。
「わかった、あれじゃない? ほら、あんた最近現世へ行くことが多かったでしょ。そのときに前世の記憶を呼び覚ますようなことがあったんじゃないの?」
乱菊がなんとなしに告げた言葉に更に胸が締めつけられる。
記憶を呼び覚ます――
そう、私は忘れている。とても大切な何かを。
「例えば前世で縁の深かった人に会ったとか、思い出の場所に行ったとか――」
現世で会った人なんてたったひとりしかいない。
思い出の場所として浮かぶのはたったひとつだ。
『おまえ、前世ではどんな人間だったんだ?』
『おまえは……本当になにも憶えていないのだな……』
声が
頭の中で響く声が、重なる。
あの夢の声と。
『死ぬな……沙羅――――!!』
バチン、と電流がはしるような痺れが脳天を突きぬけたと同時に視界が真っ白に染まった。
「――沙羅!?」
自分を呼ぶ乱菊の声がやけに遠くのほうで響いた気がした。
*